「昨日からお腹が痛くて、最初はみぞおちのあたりだったんですけど、今は右下が痛いんです」——外来でこう言われると、こちらは一気に虫垂炎(いわゆる盲腸)を疑い始める。

虫垂炎は「よくある病気」だ。だが、よくある病気だからと甘く見て様子を見すぎると、虫垂が破れて(穿孔して)腹膜炎になり、一気にやっかいになる。逆に、ただの胃腸炎を盲腸と思い込んで慌てる必要もない。大事なのは「すぐ病院に行くべき痛み」と「少し様子を見ていい痛み」を分ける目を持っておくことだ。

この記事でわかること
・虫垂炎(盲腸)に特徴的な痛み方
・すぐ病院に行くべきサインと、やってはいけないこと
・診断と治療(手術と抗菌薬)の今

虫垂炎(盲腸)とは、どんな病気か

「盲腸」と俗に呼ばれるが、正確には大腸の入り口(盲腸)からぶら下がった虫垂という細い管に炎症が起きる病気で、医学的には虫垂炎という。中に便のかたまりなどが詰まって炎症が進む、というのが典型的な流れだ。

怖いのは、炎症が進むと虫垂が破れることだ。破れると中の膿や腸内細菌がお腹の中に漏れ、腹膜炎という重い状態になる。ここまでいくと、入院も手術も大がかりになり、回復にも時間がかかる。だからこそ「破れる前に気づく」ことが何より大事になる。

なお、子どもや若い人の病気というイメージがあるが、大人や高齢者でも普通に起こる。特に高齢者は、痛みの場所がはっきりせず、発熱や血液検査の炎症反応も目立たないことがある。「症状が軽い=安心」ではなく、気づいたときには進行していることもあるので注意がいる。

特徴的なのは、痛みが「移動」すること

虫垂炎のいちばんの特徴は、痛む場所が動くことだ。典型的にはこう進む。

  • 最初:みぞおちやおへその周りが、なんとなく漠然と痛い・気持ち悪い
  • 数時間〜半日後:痛みが右下腹部に移動して、そこに限局してくる
  • あわせて:食欲がなくなる、吐き気、微熱が出てくることが多い

特に「食欲が全くない」のは地味に重要なサインだ。虫垂炎でお腹がすく人は少ない。また、歩いたり咳をしたりすると右下腹部に痛みが響く、右足を曲げると楽、といった訴えもよく見られる。

みぞおちの痛みは原因が幅広く、虫垂炎以外にもいろいろある。痛みの場所と移動については「みぞおちが痛い」は胃だけの問題じゃないでも整理しているので、あわせて読んでほしい。

外来でよくある誤解:「盲腸は歩けば治る」

「盲腸は昔、散歩して我慢したら治った」「大したことないからしばらく様子を見ればいい」——こう思っている人は、今でも本当に多い。

確かに、ごく軽い炎症が自然に治まることはある。だが、それは結果論だ。進行するか自然に治まるかを、痛みの初期に自分で見分けることはできない。「歩けば治る」と信じて我慢した結果、破れて腹膜炎になり、緊急手術になる人を何人も見てきた。様子を見て治るのを期待するより、疑わしい痛みは早めに診てもらうほうが、結果的に体への負担は小さい。

すぐ病院に行くべきサイン

次のようなときは、自己判断で様子を見ず、早めに受診してほしい。夜間や休日でも、強くなる一方の腹痛は救急受診を検討する。

  • みぞおち・へそ周りの痛みが、右下腹部に移動してきた
  • 右下腹部の痛みが、時間とともに強くなっている
  • 歩いたり、車の振動や咳でお腹に響く
  • 食欲が全くなく、吐き気・嘔吐を伴う
  • 発熱してきた
  • お腹を押して離すと、ズンと強く響く痛みがある(反跳痛)

特に注意したいのが、強かった痛みが急に楽になったケースだ。これは「治った」のではなく、虫垂が破れて圧が抜けただけのことがある。その後にお腹全体が痛くなってくるなら、腹膜炎のサインで危険だ。痛みが消えても安心しきらないでほしい。

なお、右下腹部の痛みは虫垂炎だけでなく、大腸の憩室の炎症(憩室炎)や、食中毒・胃腸炎、尿路結石(特に右の尿管結石)、女性なら婦人科の病気でも起こる。自分で原因を断定せず、受診して鑑別してもらうのが安全だ。

診断と治療——手術と抗菌薬の今

診断は、お腹の診察に加えて、血液検査(炎症の数値)と、腹部エコーやCTで虫垂の腫れを確認して行う。問診と診察だけでなく画像で確かめるのが今は一般的だ。若い人や妊婦では、まず体に負担の少ないエコーを優先することが多く、CTは診断精度が高い一方で被ばくも考慮して使い分ける。

治療は、大きく2つ。

  • 手術(虫垂切除):標準的な治療。今は多くがお腹に小さな穴を開ける腹腔鏡手術で、回復も比較的早い。破れている場合や進行例では、より確実な手術が必要になる
  • 抗菌薬による治療:炎症が軽く、破れていない一部のケースでは、手術せず抗菌薬で炎症を抑える選択肢もある。ただし一定の割合で再発するうえ、治療の途中で炎症が悪化して結局手術になることもある

どちらが向くかは、炎症の程度・年齢・全身状態によって変わる。「手術せず薬で散らしたい」という希望があっても、状態によっては手術のほうが安全なこともある。ここは主治医とよく相談して決めるところだ。

やってはいけないこと

受診前に、よかれと思ってやりがちだが避けてほしいことがある。

  • 市販の痛み止めで紛らわせて様子を見続ける。一度飲むくらいはやむを得ないが、痛みが隠れて受診も診断も遅れるので、それで安心して放置しないこと
  • 下痢止めでごまかす。原因がわからないうちの自己判断は危険
  • お腹を強く揉む・自己判断で温める。炎症を刺激することがあるので、温罨法は避ける
  • 「治るかも」と食べて様子を見る。手術になった場合に備え、強い腹痛のときは飲食を控えて受診するほうがよい

よくある質問

Q. 盲腸は手術しないと治りませんか?

A. 軽症で破れていない場合は、抗菌薬で炎症を抑える選択肢もある。ただし再発することがあり、確実なのは手術だ。状態によって最適な方法が変わるので、医師と相談して決めることになる。

Q. 痛みが治まったら、受診しなくて大丈夫ですか?

A. 油断は禁物だ。強い痛みが急に楽になったときは、虫垂が破れて圧が抜けただけのこともある。その後にお腹全体が痛くなるなら腹膜炎の危険サインなので、痛みが消えても気になる経過なら受診してほしい。

Q. 子どもや高齢者で気をつけることは?

A. どちらも症状がはっきりせず、診断が遅れやすい。小さな子は痛む場所をうまく言えず、高齢者は痛みや発熱が軽く出ることがある。「いつもと様子が違う」「元気がなく食べない」が続くときは、早めの受診を。

まとめ

虫垂炎は身近な病気だが、「歩けば治る」と様子を見すぎると、破れて一気に重くなる。覚えておいてほしいのは、みぞおちから右下腹部へ痛みが移動し、食欲がなく、時間とともに強くなる——この組み合わせが出たら、早めに受診するということだ。

そして、痛みが急に楽になっても安心しきらない。盲腸くらい、と侮らず、疑わしい痛みは破れる前に診てもらう。迷ったときは、「様子見」より「受診」を選ぶ。これが、結果的にいちばん体に優しい選択になる。

参考
・日本腹部救急医学会 急性腹症診療ガイドライン
・日本外科学会 関連資料
・厚生労働省 関連資料
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。

最終更新:2026年07月

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消化器内科医2桁年目。胃腸・内視鏡・当直の話から、家事・時短・車・投資まで。忙しい人の暮らしを少しラクにする情報をゆるく発信。