「便潜血陽性」を放置している人に、内視鏡医が言いたいこと
健診で「便潜血陽性」と出た。
でも症状はないし、去年も陽性だったけど何もなかったし、大腸カメラって準備が大変そうだし——そのまま放置している人が、思っているより多い。
内視鏡医として正直に言う。それは見逃しにつながりやすい、避けたい対応だ。
この記事でわかること
・「痔があるから」で片付けられない理由
・「去年も陽性だった」は、去年どうしたかで意味が変わること
・精密検査で異常なしだったら、次にどうするか
便潜血検査とは何か
便潜血検査は、便の中に血液が混じっていないかを調べる検査だ。大腸がん検診として広く使われており、2日分の便を採取して提出する。対策型の検診では、40歳以上を対象に年1回受けることがすすめられている。
陽性=大腸がん確定、ではない。陽性になる原因はいろいろある。
- 大腸ポリープ
- 痔
- 大腸炎
- そして大腸がん
陽性になった人のうち、実際に大腸がんが見つかるのは一部だ。それより多くの人で、ポリープなどの異常が見つかる。陽性だからといって、過度に怖がる必要はない。
ただし、逆に言えば——陽性になったとき、それが何によるものかは、精密検査を受けてみないとわからない。
精密検査は通常、大腸カメラ(全大腸内視鏡検査)が第一選択になる。内視鏡が難しい事情がある場合には、大腸CTなど別の方法を検討することもある。
先に:便潜血をもう一度受けても、精密検査の代わりにはならない
これは意外と知られていない。
「もう1回出したら陰性になるかもしれない」——そう考えて、便潜血をやり直す人がいる。これは代わりにならない。
大腸がんやポリープからの出血は、いつも一定に出ているわけではない。出ていないタイミングで採れば、陰性になることがある。だから2回目が陰性でも、それは「何もない」ことの証明にならない。
一度陽性が出た時点で、次にやることは精密検査だ。これは国のがん検診の案内にも明記されている。
外来でよくある誤解:「痔があるから、陽性は当たり前」
放置される理由として、これがいちばんよく聞かれる。そして、見逃しにつながりやすい。
言いたいことはわかる。痔からの出血が便潜血陽性に関わることはある。痔は日本人にありふれた病気でもある。
でも、ここを間違えないでほしい。
痔があることは、大腸に何もないことの証明にはならない。
便潜血検査が教えてくれるのは「便に血が混じっていた」という事実だけだ。その血がどこから出たのかまでは、区別できない。肛門からの血か、大腸の奥からの血か——検査は答えを持っていない。
国のがん検診の案内にも、こう書かれている。もともと痔がある場合でも、痔が原因で出血しているのか、大腸がんやポリープのために出血しているのかは、精密検査をしないとわからないと。
そして痔と大腸がんは、同じ人に両方あってもおかしくない。痔があるから大腸がんにならない、という関係ではまったくない。年齢が上がれば、両方の可能性が同時に上がっていく。
内視鏡をやっていると、「痔だと思っていた」という人に大腸がんが見つかることがある。痔があったこと自体は間違っていない。ただ、それだけではなかった。
痔があるかどうかと、便潜血陽性で精密検査を受けるかどうかは、別の話だ。
痔の症状そのものについては痔かな?と思ったときに知っておきたいこと、血便の色から考える話は血便が出たときに考えることにまとめている。
「去年も陽性だったけど何もなかった」——去年どうしたかで、話が変わる
ここはよく混同されるので、分けて考えたい。
去年の陽性を、放置していた場合
今年こそ精密検査を受けてほしい。
「毎年陽性だけど何もなかったから、今年も大丈夫」——この「何もなかった」は、調べた結果として何もなかったのではなく、調べていないだけだ。何年も陽性が続いているという事実は、安心材料にはならない。
去年の陽性のあとに、大腸カメラを受けて異常なしだった場合
こちらは事情が違う。
直近の大腸内視鏡で異常がなく、そのあとの便潜血が陽性になった場合に、もう一度内視鏡を受けるべきかどうかは、国としての方針がまだ定まっていない。
だから、この場合は「必ず受けるべき」とも「受けなくていい」とも、この記事では言えない。前回いつ受けたか、腸の中がしっかり観察できていたか、ポリープを取ったことがあるか、家族歴はあるか、症状はあるか——そういったことを踏まえて、前回の担当医か消化器内科に相談してほしい。
「去年カメラで異常なしだったから」を、自分で結論にしないこと。そこは相談する場面だ。
大腸がんとポリープの関係
大腸がんの一部は、腺腫などの前がん病変を経て、年単位で進んでいくと考えられている。だから、早い段階で見つけて取ることに意味がある。
ただしすべての大腸がんが同じ経過をたどるわけではない。別の経路をたどるものもあるし、検診と検診の間に発生・進行するものもわずかながらある。
また、ポリープにも種類がある。腺腫、鋸歯状病変、過形成性ポリープ——種類や大きさ、数、切除できたかどうかで、次の検査の時期は変わる。前回の結果票があるなら、それを持って相談するのがいちばん早い。
放置すると、どうなるか
内視鏡をやっていると、こういう患者さんに出会うことがある。
「何年も便潜血陽性だったけど、忙しくて来られなくて……」
精密検査を受けずにいる間に、進行した状態で見つかる例がある。より早い段階で見つかっていれば、内視鏡治療の対象になっていた可能性がある。
大腸がんは、見つかった段階によって治療法も見通しも大きく変わる。国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計(2014〜2015年診断例)では、大腸がんの5年ネット・サバイバルはⅠ期で92.3%、Ⅳ期で18.3%とされている。
(ネット・サバイバルは、がん以外の死因の影響を調整して推定する生存の指標だ。)
「症状がないから大丈夫」は通じない
早期の大腸がんは、自覚症状がないことが少なくない。だから「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がないうちに見つけるための検査」が便潜血であり、大腸カメラだ。
逆に、症状があるなら話は別になる。血便、腹痛、排便回数や便の性状の変化が続く、理由のはっきりしない体重減少——こういうときは、検診の結果を待たずに受診してほしい。
なお、症状の有無だけで進行の程度は判断できない。「症状が出た=もう手遅れ」でもないし、「症状がない=何もない」でもない。
大腸カメラを受ける前に読んでほしい
「怖い」「準備が大変そう」——踏み切れない理由は人によって違う。段階ごとにまとめたページを用意してある。
急ぐなら、直接ここから読んでもいい。
- 大腸カメラが怖い人へ——痛みと鎮静の話
- 前日・当日の過ごし方——食事と下剤
- 費用はいくらか——保険適用の条件
なお、大腸カメラにも、まれに出血や穿孔といった偶発症が起こることがある。「絶対に安全な検査」ではない。そのうえで、便潜血陽性という結果が出ている人にとっては、受ける側の利益が上回ると考えられている。気になることは事前に聞いてほしい。
よくある質問
Q. 2日のうち1日だけ陽性でした。それでも受けるべきですか?
A. 受けてください。2日法は「どちらか1日でも陽性なら精密検査」という設計になっています。1日だけだから軽い、という意味ではありません。
Q. 精密検査で異常なしでした。もう安心していいですか?
A. その回については安心してよい結果です。ただし「これで終わり」ではありません。
確認しておきたいのは次の2つです。「便潜血検査はいつから再開すればいいか」と、「次の大腸カメラは必要か、必要ならいつか」。これは、腸の中を十分に観察できたか、ポリープを取ったかどうかとその病理結果、年齢、家族歴などによって変わります。結果を聞くときに、その場で確認しておいてください。
Q. 生理中や、痔から出血しているときに提出しても大丈夫ですか?
A. 採便の可否や延期の扱いは、検診機関や使用するキットの案内に従ってください。ただし——すでに陽性が出てしまった場合に「生理や痔のせいだろう」と自己判断で片付けるのは別の話です。そこは精密検査について相談してください。
Q. 便潜血を飛ばして、最初から大腸カメラを受けてはいけませんか?
A. 選択肢としてはあります。家族歴がある、症状がある、以前ポリープを指摘されたことがある——そうした場合は、はじめから大腸カメラを検討することがあります。ただし保険が使えるかどうかは受診の理由によって変わるので、事前に相談してください。
まとめ:陽性が出たら、自分で結論を出さない
便潜血陽性は、大腸がんの確定ではない。でも、原因を痔と決めつけたり、症状がないことを理由に放置したりするのは避けたい。
- 「痔があるから」は理由にならない。便潜血は、血がどこから出たかまでは教えてくれない
- 便潜血をもう一度受けても、精密検査の代わりにはならない
- 1日だけの陽性でも、精密検査の対象になる
- 「去年も陽性」は、去年放置したのか、調べて異常なしだったのかで話が変わる。後者は相談する場面
- 異常なしだったときは、「便潜血はいつから再開するか」「次のカメラは必要か」を聞いておく
陽性が出たら、自己判断で終わらせず、精密検査について相談する。まずはそれだけでいい。
「忙しいから」「怖いから」「去年も大丈夫だったから」——その言い訳が、もったいない結果につながることがある。
参考
・国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」「大腸がん(結腸がん・直腸がん)予防・検診」
・国立がん研究センター 院内がん登録生存率集計(2014〜2015年診断例・5年ネット・サバイバル)
・日本消化器内視鏡学会「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」(2020年8月)
・日本消化器病学会「大腸ポリープ診療ガイドライン2020」
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
最終更新:2026年9月
