「検査しても異常なし。でもお腹の調子が悪い日が続く。」

過敏性腸症候群(IBS)と診断された、あるいはそれに近い状態だと言われた人が次に感じる疑問はたいてい同じだ。「で、何をすればいいんですか?」

IBSのメカニズムや「なぜお腹が弱くなるのか」については別の記事で詳しく書いた。今回はそこから一歩進んで、「実際に何をするか」に絞って解説する。

IBSの対処は「組み合わせ」が基本

IBSに「これ1つで治る」という特効薬はない。食事・生活習慣・薬・ストレスケアを組み合わせながら、自分に合うパターンを見つけていくのが基本的な考え方だ。例えば「低FODMAP食+整腸剤+睡眠改善」といった形で複数の手を同時に打つと効果が出やすい。

外来でよく見るのは、薬だけ飲んで食事は変えない、あるいは食事だけ気をつけて薬は使わない、というケース。どちらか片方だけでは効果が出にくいことが多い。

① 食事:低FODMAP食が有効なケースがある

IBSの食事療法で近年注目されているのが低FODMAP(フォドマップ)食だ。FODMAPとは、腸内で発酵しやすい糖類(発酵性オリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオール)の総称で、これらを一時的に制限することで症状が改善するケースがある。

高FODMAP食品(避けるもの)の代表例:

  • 小麦(パン・パスタ・うどん)
  • 牛乳・ヨーグルト(乳糖を多く含むもの)
  • 玉ねぎ・にんにく(特に影響が強い)、キャベツ・ブロッコリー(量による)
  • りんご・梨・桃・スイカ
  • 豆類・はちみつ・人工甘味料(キシリトールなど)

低FODMAP食品(比較的安心なもの)の代表例:

  • 米・米粉・そば(十割が望ましい)・じゃがいも
  • 鶏肉・魚・卵・豆腐
  • にんじん・なす・ほうれん草・トマト
  • バナナ・いちご・ぶどう・オレンジ

複数のRCT・メタ解析では、IBS患者の半数以上(約50〜70%)に有効との結果が出ている。ただし低FODMAP食は「一生続ける食事」ではなく、2〜6週間試して症状の変化を確認し、その後少しずつ食品を戻しながら自分のトリガーを特定するというプロセスで使う。

② 生活習慣:地味だけど効く3つ

食事以外で症状に影響する生活習慣として、以下の3つは特に意識してほしい。

睡眠:腸と脳は密接につながっており(脳腸相関)、睡眠不足はIBSの症状を悪化させやすい。7時間前後の睡眠を確保することが症状の安定につながるとされている。

適度な運動:ウォーキング程度の有酸素運動が腸の動きを整える効果がある。激しい運動はかえって症状を悪化させることがあるので、無理のない範囲でいい。

食事のリズム:不規則な食事時間は腸のリズムを乱す。特に朝食を抜かない習慣は、腸の蠕動運動を促す意味で効果的だ。

③ 薬:タイプによって選択肢が変わる

IBSには下痢型・便秘型・混合型があり、使う薬もタイプによって変わる。

下痢型IBSに使われる主な薬:

  • イリボー(ラモセトロン):5-HT3受容体拮抗薬。腸の過剰な動きを抑え、下痢・腹痛を改善する。下痢型IBSに適応(性別問わず使用される)
  • コロネル・ポリフル(ポリカルボフィルカルシウム):便の水分を調整して下痢・便秘の両方に使える整腸剤

便秘型IBSに使われる主な薬:

  • リンゼス(リナクロチド):腸液の分泌を促し、便を柔らかくして排便を助ける。腹痛にも効果あり
  • グーフィス(エロビキシバット):胆汁酸の吸収を抑えて腸の動きを促進する

共通して使われる薬:

  • 整腸剤(ビオフェルミンなど):腸内環境を整える。副作用が少なく試しやすい
  • 抗不安薬・抗うつ薬(少量):痛みの知覚過敏に作用するため、症状が重い場合に少量で使われることがある。脳腸相関へのアプローチとして処方される

薬は自分のIBSのタイプに合ったものを選ぶ必要があるため、消化器内科で相談した上で処方してもらうのが基本だ。

④ ストレスケア:根本に向き合う

IBSの症状はストレスや不安と強く連動する。「気のせい」ではなく、脳腸相関という実際のメカニズムで腸に影響が出ている。そのため、腸だけを治療しても限界があるケースがある。

ストレスケアとして有効とされるアプローチ:

  • 認知行動療法(CBT):IBSに対して有効性のエビデンスがある。「腹痛が来るかも」という予期不安を和らげる効果が期待できる。消化器内科や心療内科で受けられることがある
  • マインドフルネス:腸の感覚への過敏さを和らげる効果が期待される
  • 睡眠・休息の確保:疲労が蓄積すると症状が悪化しやすい

まとめ

  • IBSの対処は食事・生活習慣・薬・ストレスケアの組み合わせが基本
  • 低FODMAP食はIBS患者の半数以上(約50〜70%)に有効。2〜6週間試して自分のトリガーを探す
  • 薬はIBSのタイプ(下痢型・便秘型)によって選択肢が変わる
  • ストレスは「気のせい」ではなく実際に腸に影響する。CBTや心療内科へのアプローチも選択肢
  • 症状が続くなら消化器内科で相談を。「何もできない」わけではない

「異常なし」と言われた後が、IBSとの付き合いの本番だ。1つずつ試しながら、自分のお腹のパターンを把握していくことが、長期的に楽になる近道になる。

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コンビニ医
消化器内科医10年目。内視鏡専門医・大学院生・2児の父。 忙しい勤務医目線で「本当に使えるもの」「本当に正しい医療情報」だけを発信します。