「お腹が痛くて、背中まで抜けるような痛みがある」

こういう痛みが出たとき、急性膵炎の可能性がある。みぞおちや左上腹部の強い痛みが、お腹の奥から背中へ突き抜けるように響く——これは膵炎でしばしばみられる出方だ。ただし同じような痛みは他の緊急性の高い病気でも起こるので、いずれにしても様子を見ていい痛みではない。

この記事でわかること
・急性膵炎の症状と、受診すべきサイン
・主な原因であるアルコールと胆石、そして男女で違う傾向
・診断されたあとの入院・食事の考え方

急性膵炎とは何か

膵臓は胃の裏側に横たわる臓器で、消化酵素とインスリンを作っている。急性膵炎は、本来は十二指腸に出てから働くはずの消化酵素が、膵臓の中で活性化してしまい、膵臓自体に急な炎症が起きる病気だ。

軽症で済めば、点滴などの治療で回復に向かうことが多い。一方で重症例では、膵臓の壊死、感染、ショック、複数の臓器の障害などを伴うことがあり、集中治療が必要になる場合もある。同じ病名でも幅がかなり広い。

主な原因はアルコールと胆石——ただし男女で傾向が違う

日本では、急性膵炎の二大原因はアルコールと胆石とされている。ただし「この2つでほとんど」というわけではない。

診療ガイドラインが引用している2016年の全国調査(約3,000例)では、原因の内訳はこうなっている。

  • アルコール性:全体で32.6%
  • 胆石性:全体で25.8%
  • 特発性(原因がはっきりしないもの):全体で19.1%

ここで知っておくと役に立つのが、男女で傾向がはっきり違うことだ。

  • 男性:アルコール性42.8%、胆石性19.8%
  • 女性:胆石性37.7%、アルコール性12.0%

男性はアルコール、女性は胆石が最も多い。この差はかなり大きい。「お酒を飲まないから膵炎とは無縁」とは言えないということでもある。

アルコールが原因になる場合
飲酒が膵臓にダメージを与えることで発症する。アルコールが消化器に与える影響は膵臓だけにとどまらない。

胆石が原因になる場合
胆嚢にできた石が胆管に落ちて詰まり、膵液の流れが妨げられることで膵炎が起きる。胆石を指摘されたことがある人は、この可能性を念頭に置いておくといい。

このほか、高中性脂肪血症、薬剤、ERCP(内視鏡を使った胆管・膵管の検査)のあと、膵管の形態異常なども原因になる。

症状——背中に響く痛みが出ることがある

急性膵炎でよくみられる症状はこうだ。

  • みぞおちや左上腹部の、強く持続する痛み
  • 背中への放散痛(「背中まで抜ける」「締め付けられる」と表現されることが多い)
  • 吐き気・嘔吐(吐いても痛みが楽にならないのが特徴的だ)
  • 発熱
  • 前かがみの姿勢で、少し楽に感じることがある

ただし、ここははっきり書いておきたい。これらの症状だけで急性膵炎と決まるわけではない。急性膵炎の診断は、症状と診察所見、血液・尿の膵酵素の値、画像検査——このうち複数を組み合わせ、他の急性腹症を除外したうえで下される。症状だけで判断できるものではないということだ。

もうひとつ大事なこととして、痛みの強さと重症度は必ずしも一致しない。「そこまで痛くないから軽いはず」とは考えないでほしい。

みぞおちの痛みにはさまざまな原因がある。心筋梗塞や大動脈解離でも似たような強い腹痛・背部痛が出ることがあるし、胆嚢や胃十二指腸の病気でも起こる。自分で原因を絞り込もうとせず、受診して鑑別してもらうのが安全だ。

外来でよく聞く誤解

「胃が痛いだけだと思って様子を見ていた」
急性膵炎の痛みは胃痛と区別しにくいことがある。ただし通常の胃痛と違うのは「痛みが持続して改善しない」「背中まで響く」「吐いても楽にならない」という点だ。胃潰瘍・十二指腸潰瘍との鑑別も必要になるため、強い腹痛が続く場合は自己判断せず受診してほしい。

「我慢できる程度だから様子見でいい?」
ここは、受診するかどうかの話と、診断がついたあとの治療の話を分けて考えたい。まず強い腹痛が続いているなら、自宅で様子を見続けず速やかに受診してほしい。そのうえで、急性膵炎と診断された場合は、点滴による初期治療、痛みの管理、原因を調べること、そして時間をおいて重症度を繰り返し評価することが必要になるため、入院して管理することが多い病気だ。急に悪くなることがあるので、経過を見ておく必要があるということだ。

「絶食で膵臓を休ませるんですよね?」
ここは考え方が変わってきているところだ。かつては「膵臓を休ませる」ために長く絶食するのが当然とされていた。だが現在は、一律に長期間の絶食を続ける考え方は見直されている。軽症の場合は、腸の動きが戻ってきたかどうかや全身の状態を確認しながら、食事を再開していく。重症の場合はまた別の考え方になり、状態に応じて早い段階から栄養を入れていくことが検討される。いずれにしても、いつ何から始めるかは主治医が判断することなので、自己判断はしないでほしい。

受診すべきサイン

以下のような状況では、自己判断で様子を見ず、救急も含めて速やかに受診してほしい。

  • 突然始まった強い腹痛が続いている、または強くなっている
  • 痛みが背中や胸に広がる
  • 繰り返し吐く/吐いても痛みが楽にならない
  • 発熱を伴う
  • 冷や汗が出る、息が苦しい

特に、血圧が下がる、意識がはっきりしない、お腹全体が板のように硬くなる——こうした状態は、急性膵炎に限らず緊急性の高い状況を示すサインだ。ためらわず救急要請を検討してほしい。

なお、痛みの続いた時間で「これくらいなら様子を見よう」と決めないでほしい。時間を目安にして待つより、痛みの強さと経過で判断するほうが安全だ。

よくある質問

Q. 急性膵炎は繰り返しますか?

A. 原因を取り除かないと再発することがある。アルコールが原因なら禁酒、胆石が原因なら胆嚢の摘出手術を行うことで、再発のリスクを下げられる。原因に応じた対策をとることが、再発予防でいちばん重要だ。

また、膵炎を繰り返す場合には、背景に胆石、飲酒、脂質の異常、膵管の形態異常などが隠れていないかを調べることになる。慢性膵炎との関連も含めて、専門的な評価が必要になることもある。

Q. 急性膵炎の治療中、いつから食事できますか?

A. 以前は「まず絶食、落ち着いたら水分、流動食、粥」と長く段階を踏むのが定番だった。だが現在は、一律に長期間の絶食を続ける考え方は見直されている。軽症の場合は、腸の動きが回復してくれば経口摂取を再開できるとされている。

ただし重症の場合は話が別で、状態に応じて早い段階から栄養を入れていくことが検討される。開始時期も内容も、重症度や経過によって変わるので、自己判断せず主治医の指示に従ってほしい。退院後の食事についても、原因や回復の状況に応じて個別に決まる。

Q. 膵炎になったことがある人は、お酒を完全にやめないといけませんか?

A. アルコールが原因の膵炎であれば、禁酒が強く勧められる。実際、禁酒した人では再発が明らかに少ないことが報告されている。「少量なら」という考え方は、再発のリスクを残すことになる。

ただ、「やめろ」と言われてやめられるなら苦労はない、というのも正直なところだと思う。やめたいのに続いてしまう場合は、意志の問題として抱え込まず、主治医に相談してほしい。飲酒の問題に対応する専門の医療機関や相談窓口もある。ひとりで我慢するより、そちらのほうが結果的にうまくいく。

まとめ

急性膵炎は、みぞおちの強い痛みが背中に響くという出方をすることがある。主な原因はアルコールと胆石で、男性はアルコール、女性は胆石が多いという傾向がある。

ただし症状だけで診断できる病気ではないし、痛みの強さと重症度も一致しない。強い腹痛が続くなら、時間で待たずに受診する。診断がついた場合は、経過を見る必要があるため入院して治療することが多い。

迷ったときは我慢せず、その時点で消化器内科か救急を受診してほしい。

参考
・「急性膵炎診療ガイドライン2021(第5版)」(日本腹部救急医学会・日本肝胆膵外科学会・日本膵臓学会・日本医学放射線学会 編/2021年)
・同ガイドラインが引用する2016年全国調査(急性膵炎の成因に関する疫学データ)
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。

最終更新:2026年08月

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コンビニ医
消化器内科医2桁年目。胃腸・内視鏡・当直の話から、家事・時短・車・投資まで。忙しい人の暮らしを少しラクにする情報をゆるく発信。