妊娠中の胸やけ・便秘・痔。「薬が飲めないから」と我慢しなくていい
「妊娠中だから、薬は飲めないですよね」
外来でこう言われることがある。胸やけで眠れない、便秘が何日も続いている、痔が痛くて座れない。それでも「妊娠中だから仕方ない」と、ずっと我慢してきた——という話だ。
気持ちは分かる。ただ、我慢しすぎて食事がとれない、眠れないという状態が続くこと自体も、体にとっては負担になる。相談したうえで対処できることもあるので、まず「相談していい」と知ってほしい。
先に断っておくと、筆者の専門は消化器内科であって、産科ではない。だからこの記事では、具体的な薬の名前や使っていいかどうかは書かない。それは妊娠の経過を診ている産科の主治医が判断することだ。ここで書くのは、なぜ起きるのか、家でできることは何か、そしてどういうときは急いで連絡すべきか——この3つに絞る。
この記事でわかること
・妊娠中に胃腸の不調が起きやすい理由
・時期によって出やすい症状が変わること
・「胃の不調」と思って様子を見てはいけないサイン
妊娠中に胃腸の調子が崩れるのは、理由がある
まず知っておいてほしいのは、これらの症状が気のせいでも、体力不足でもないということだ。妊娠中の体には、胃腸の働きを変える理由がいくつも重なっている。
- ホルモンの影響:妊娠中に増えるホルモンには、消化管の筋肉をゆるめる働きがある。その結果、胃と食道のつなぎ目の締まりが弱くなり(=逆流しやすい)、腸の動きも落ちやすくなる(=便秘しやすい)
- 子宮が大きくなること:物理的に胃が押し上げられ、腸が圧迫される。後期になるほどこの影響は大きくなる
- 鉄剤:貧血の治療で鉄剤を使っている場合、便秘や吐き気、腹痛などが出ることがある
- 生活の変化:食べられるものが偏る、動く量が減る、水分をとる量が変わる。これも腸の動きに関わってくる
つまり「妊娠しているから起きている」のであって、自己管理が悪いから起きているわけではない。ここを誤解して自分を責めてしまう人がいるので、最初に書いておきたかった。
時期によって、出やすい症状が変わる
もうひとつ知っておくと役に立つのが、時期による傾向の違いだ。
初期に多いのは吐き気や嘔吐、においへの敏感さ。いわゆるつわりの時期だ。そして中期から後期にかけては、子宮が大きくなる影響が加わって、胸やけ・便秘・痔が目立ってくることが多い。
ただし、これはあくまで傾向であって、はっきり区切れるものではない。胸やけは妊娠初期から出ることもあるし、妊娠が進むにつれて強くなっていくこともある。逆流が起きる理由も、子宮による圧迫だけでなく、ホルモンによって食道と胃のつなぎ目の締まりが弱くなることが大きく関わっている。だから「まだ初期だから胸やけのはずがない」とは考えないでほしい。
逆に「つわりが終わったのに、今度は胸やけがつらい」という人もいる。これはつわりの続きではなく、別の理由で起きている別の症状だ。「つわりが終われば楽になる」とだけ思って身構えていると、後半で戸惑うことになる。
外来でよくある誤解:「妊娠中は薬を一切飲めない」
これがいちばん多い誤解だ。そして、この思い込みのせいで相談すらせずに我慢してしまう人が少なくない。
実際には、妊娠の時期や症状の内容によって、相談したうえで使えるものはある。何を使えるかは妊娠週数や体の状態によって変わるので、ここで具体的に書くことはしない。それは産科の主治医が判断することだ。
ただ、ひとつはっきり言えるのは、「我慢すること」自体は安全策ではないということだ。胸やけで眠れない日が続く、便秘で強くいきむ状態が続く、痛みで食事がとれない——こうした状態が長引くことにも、それなりの負担がある。相談したうえで「やはり様子を見ましょう」となるのと、相談せずに耐えるのとでは、まったく意味が違う。
そしてもうひとつ、逆方向の注意も書いておきたい。すでに処方されている薬やサプリメントを、自己判断で始めたり、やめたり、量を変えたりしないでほしい。「妊娠中だから飲まないほうがいいだろう」と自分で中止してしまうと、本来必要な治療が途切れてしまうことがある。迷ったら、処方元か産科に確認してほしい。
妊婦健診は定期的にあるので、そのときにまとめて伝えるのでもいい。「こんなことで聞いていいのかな」と思う内容ほど、聞いておいたほうがいい。
家でできること
胸やけ・逆流がつらいとき
- 1回の量を減らして、回数を増やす。胃に入る量が減れば、押し上げられる圧も減る
- 食べてすぐ横にならない。就寝前は数時間空けるとよいとされている
- 寝るときに上半身を少し高くする。枕を重ねるだけだと首に負担がかかりやすいので、上半身全体をなだらかに傾けられるほうが楽だと思う
- 脂っこいもの、酸味の強いもの、カフェインなど、自分が悪化しやすいと感じるものは控える
逆流そのものの仕組みは「胸焼けが続く」は逆流性食道炎かも|原因・治療・生活習慣をまとめて解説に詳しく書いた(妊娠中でない人向けの内容なので、生活の工夫の部分を参考にしてほしい)。
便秘がつらいとき
- 水分をとる。つわりで飲めていない時期のあと、そのまま水分量が戻っていない人は多い
- 産科から安静や運動の制限を受けていない範囲で、体を動かす。散歩程度でも役立つことがある。ただし妊娠の経過によっては制限がかかることもあるので、そこは必ず確認してほしい
- 強くいきまない。ここは痔につながるので重要だ。出ないときは長く粘らず、いったん切り上げる
- 市販の便秘薬を自己判断で使わず、まず相談する
なお、つわりで水分そのものがとれないという状態は、家での工夫でどうにかする段階ではない。早めに連絡してほしい。便秘そのものの考え方はその便秘、様子見でいい?——受診したほうがいい”危ない便秘”の見分け方にまとめている。
痔がつらいとき
- 便秘対策が、そのまま痔の対策にもなる。便秘や長時間のいきみは、痔の重要な関連因子とされている
- 長時間同じ姿勢で座らない。座る時間が長いなら、こまめに立つ
- お尻を清潔にしつつ、洗いすぎ・こすりすぎには注意する
- 出血がある場合は、痔だと自己判断せず伝えてほしい
ただし痔ができる背景は便秘だけではなく、妊娠や出産そのものも関わってくる。だから「便秘に気をつけていたのにできた」としても、自分のせいではない。痔については痔、放置してませんか?「恥ずかしいから」で済まない理由を消化器内科医が話しますに書いた。産後まで続くこともあるので、早めに手を打っておくほうがいい。
「胃の不調」だと思って様子を見てはいけないとき
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分だ。
妊娠中に起きるみぞおちや右上腹部の痛みは、胃の症状のように感じられることがある。だから「胃が痛い」「胃炎かな」と受け取って、様子を見てしまう人がいる。
ただ、妊娠20週以降にこの部位の強い痛み、あるいはいつもと違う痛みが出る場合、妊娠高血圧症候群のような産科として急いで対応すべき状態が背景にあることがある。頭痛、目のかすみ、急なむくみ、これまで経験したことのないような頭痛などを伴うこともある。
ここで大事なのは、家庭で血圧を測っていなくても、血圧が正常でも、連絡していいということだ。「血圧を知らないから判断できない」と待つ必要はない。痛みの強さや、いつもと違うという感覚だけで十分な理由になる。
もうひとつ、妊娠中の強いかゆみも知っておいてほしい。はっきりした発疹がないのに体じゅうがかゆく、とくに手のひらや足の裏がかゆい、夜に強くなる——こうしたかゆみが続くときは、肝臓や胆汁の流れに関わる状態の評価が必要になることがある。もちろん皮膚の乾燥や他の皮膚の病気であることも多いので、これだけで何かが決まるわけではない。ただ「乾燥かな」で済ませず、一度伝えておく価値はある。
いずれも、判断は産科の主治医に委ねてほしい。この記事の役割は、「これは様子を見ていい胃の不調ではないかもしれない」と気づくきっかけを作るところまでだ。迷ったら連絡していい。「大したことなかった」で終われば、それがいちばんいい結果だ。
なお、意識がもうろうとする、けいれん、呼吸が苦しい、大量の出血、耐えられないほどの痛みが続く——といった場合は、産科への連絡と並行して、地域の救急要請も検討してほしい。連絡がつくのを待っている場面ではない。
授乳中はどうか
出産すれば胃腸の不調が消えるかというと、そうとは限らない。
産後から授乳期にかけては、便秘が続いたり悪化したりすることがある。原因はひとつではない。食事や水分のとり方、睡眠が細切れになること、動く量、出産に伴う体の変化、鉄剤を続けている場合の影響——こうしたものが重なっている時期だからだ。産後にできた痔がそのまま続くことも珍しくない。
薬に関しては、妊娠中とは考え方が変わる部分がある。ただしこれも個別の判断になるので、「妊娠中はだめだったから授乳中もだめ」と自己完結せず、あらためて相談してほしい。授乳を続けながら対応できることもある。
よくある質問
Q. どこに相談すればいいですか?内科ですか、産科ですか?
A. 妊娠中は、まず産科の主治医に相談してほしい。妊娠の経過を把握している医師が窓口になるのがいちばん確実で、必要と判断されれば消化器内科などに紹介される。ただし、意識がもうろうとする、けいれん、呼吸困難、大量出血といった状況では、連絡を待たずに救急要請も検討してほしい。
Q. 妊婦健診まで待ったほうがいいですか?
A. 胸やけや便秘のようにつらいけれど急を要さない症状なら、次の健診でまとめて伝えるので構わない。そのときのために、いつから・どんなときに強いか・何を試したかをメモしておくと話が早い。ただし記事内に挙げた急ぐサインに当てはまるなら、健診を待たずに連絡してほしい。
Q. 我慢していれば、出産すれば治りますか?
A. 妊娠に伴う胸やけの多くは出産後に落ち着くとされているが、必ずそうなるとは限らない。そして便秘や痔は産後も続くことがある。とくに痔は、我慢して悪化させてから対応するより、早めに手を打っておくほうが結果的に楽だ。「出産まで耐える」を前提にしないほうがいい。
まとめ
妊娠中の胃腸の不調は、ホルモンと体の変化による理由のある症状だ。自己管理の問題ではないので、まず自分を責めないでほしい。
そして「薬が飲めないから」と相談せずに我慢するのは、安全策のようでいてそうとは限らない。相談したうえで様子を見るのと、相談せずに耐えるのは別のことだ。今飲んでいる薬を自分の判断で止めてしまうのも、同じように避けてほしい。
加えて、妊娠20週以降のみぞおち〜右上腹部の強い痛み、発疹のはっきりしない持続するかゆみは、胃腸の不調として片付けてはいけない場合がある。血圧を知らなくても、迷ったら産科に連絡していい。それで何もなければ、それがいちばんいい。
最終更新:2026年11月
参考
・日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2026」
・日本産科婦人科学会「妊娠高血圧症候群」(一般向け解説)
・日本消化器病学会『胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2026(改訂第4版)』※妊娠中でない成人向けの資料。本記事では生活の工夫の参考として引用
・日本消化管学会「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症」※同上
・国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」
※妊娠中でない成人向けの資料。本記事では生活の工夫の参考として引用
・日本消化管学会「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症」※同上
・厚生労働省 関連資料
※本記事は一般的な情報提供であり、筆者の専門は消化器内科です。妊娠中・授乳中の症状や薬の使用については、必ず産科の主治医にご相談ください。
