子どもがお腹を痛がる。すぐ病院に行くべきか、朝まで待っていいか
夜中に子どもが「お腹が痛い」と言って起きてくる。熱はない。泣くほどではないが、つらそうにしている。——このとき親が本当に知りたいのは病名ではない。今すぐ病院に連れて行くべきか、朝まで待っていいか、それだけだと思う。
先に断っておくと、筆者の専門は成人の消化器内科であって、小児科ではない。だからこの記事では診断や治療の話はしない。書くのは「どういうときに受診したほうがいいか」という見極めの考え方だけだ。そこは大人でも子どもでも共通する部分がある。
この記事でわかること
・迷わず受診したほうがいいサイン
・朝まで様子を見てもよさそうなときの目安
・夜中に判断に困ったときの相談先
迷わず受診したほうがいいサイン
まずここから確認してほしい。以下に当てはまるなら、時間帯を問わず受診を考えたほうがいい。
- ぐったりしている、顔色が悪い、呼びかけへの反応が鈍い——痛みの強さより、この「全体の様子」がいちばん大事な情報になる
- 痛みが強くて動けない、お腹を触られるのを激しく嫌がる
- 血便が出た、または緑色(胆汁性)のものを吐いた
- 水分がとれない、おしっこが出ていない(乳児では、より短い時間でも注意が必要になる)
- 男の子で、陰嚢(きんたま)の痛みや腫れを伴う
特に乳幼児では、激しく泣く時間と、けろっとしている時間を繰り返す——という出方をすることがある。「泣きやんだから大丈夫」と思ってしまいやすいのだが、この波のある痛み方は、それ自体が注意すべきサインとして学会のガイドラインにも挙げられている。判断に迷うなら、その様子を伝えて相談してほしい。
外来でよくある誤解:「熱がないから大丈夫」
これは本当に多い。「熱を測ったら平熱だったので、様子を見ていました」という話をよく聞く。
だが、熱がないことは、緊急性のある病気を否定する材料にはならない。たとえば虫垂炎(いわゆる盲腸)では発熱を伴うこともあるが、熱の高さや有無だけで重症度が決まるわけではない。学会のガイドラインでも、虫垂炎は症状の経過や診察所見、画像などを組み合わせて判断するものとされていて、発熱の有無ひとつで除外できるものではない。
だから熱の有無だけで判断しないでほしい。見るべきは痛みの経過と全身の様子だ。時間とともにおさまっていくのか、それとも続いて強くなっていくのか。痛む場所が変わってきていないか。繰り返し吐いていないか。顔色や反応はどうか。ここのほうが、体温計の数字よりよほど多くを教えてくれる。
虫垂炎そのものについてはその痛み、盲腸かも——右下腹部の痛みで「すぐ病院」と「様子見」を分けるサインに書いた(大人向けの内容だが、痛みの動き方の考え方は参考になると思う)。
朝まで様子を見てもよさそうなとき
逆に、こういうときは比較的あわてなくてよいことが多い。ただしこれは「緊急性が高くないことが多い」という目安であって、大丈夫だと保証するものではない。乳児の場合、症状を繰り返す場合、そして「いつもと違う」と感じる場合は、夜間でも相談してほしい。
- 痛がってはいるが、遊べている・テレビを見られる・話ができる
- 短い時間でおさまり、繰り返していない
- 食欲がある、水分がとれている
- 便が出たら楽になった
ここで気をつけてほしいことがある。「遊べているから大丈夫」とその瞬間だけで判断しないということだ。
前に書いた「激しく泣く/けろっとする」を繰り返すタイプでは、痛みの合間に、かなり元気そうに見えることがある。そのときだけを切り取れば「遊べている」に当てはまってしまう。だから見てほしいのは今この瞬間の様子ではなく、時間の流れの中でどうなっているかだ。おさまってきているのか、波を繰り返しているのか、だんだん強くなっているのか。ここが分かれ目になる。
なお最後の「便が出たら楽になった」は軽く見られがちだが、子どもの繰り返す腹痛では便秘が背景にあることがある。毎日出ていても、実は溜まっていることもある。便秘そのものの考え方はその便秘、様子見でいい?——受診したほうがいい”危ない便秘”の見分け方にまとめている(こちらも大人向けの記事だが、考え方の枠組みは共通する)。
家でできること、やらないほうがいいこと
様子を見ると決めたときに、家でできることはそう多くない。だが知っておくと役に立つことはある。
- 水分は少量ずつ、こまめに。一気に飲ませると吐いてしまうことがある。吐き気を伴うときの水分のとり方は吐いて下してつらいとき、家でどうすればいいかに詳しく書いた
- 食事は、無理に食べさせず水分を優先。ただし受診が必要そうな症状がなく、吐かずに水分がとれて食べたがるようなら、消化しやすいものから少量ずつ再開してよい。長く食べさせずにおく必要はないとされている
- 浣腸は、使う前に相談を。便秘だと思っていても、痛みの原因がはっきりしないうちは自己判断で使わないほうがいい
- お腹を強く押して確かめすぎない。子どもが怖がると、いざ診察のときに触らせてくれなくなる
痛み止めについて——実はここも誤解が多い
「痛み止めを飲ませると、診察のときに本当の状態が分からなくなる」——こう聞いたことがある人は多いと思う。実際、医療者の間でも長くそう言われてきた。
だがこの考え方は、現在の研究では支持されていない。腹痛に対して痛み止めを使っても、診断の間違いが増えるわけではないことが示されている。痛みを我慢させることに、それ自体の価値はない。
そのうえで、家庭で使うかどうかを迷うときは相談してほしい。年齢や体重、脱水の有無によって、使える薬や量が変わるからだ。そして強い痛み、繰り返す嘔吐、ぐったりしている、緑色のものを吐いた——こういうときは、薬で様子を見るより先に受診・相談を優先してほしい。これは薬の善し悪しの話ではなく、順番の話だ。
何度も「お腹が痛い」と言うとき
急な腹痛とは別に、繰り返し訴えるパターンもある。学校に行く前だけ痛がる、というような場合だ。
この場合も、まず確認するのは「危険なサインがないか」のほうが先になる。次のようなことがあれば、繰り返す腹痛でも一度きちんと相談したほうがいい。
- 体重が減ってきた、または増えなくなった
- 血便がある、下痢が続いている
- 原因のはっきりしない発熱が続いている、繰り返している
- 繰り返し吐いている
- 夜中に痛みで目が覚める
そのうえで、こうしたサインがない場合の話をする。「仮病だろう」と受け取ってしまいたくなるが、そう決めつけないでほしい。本人は本当に痛みを感じていることが多い。実際、繰り返す腹痛の背景に便秘が関わっていることはあるし、心理的な負担が体の症状として出ることも、子どもでは珍しくない。どちらにしても「気のせい」ではないし、原因が分かれば対応できることも多い。
よくある質問
Q. 夜中に迷ったら、どこに相談すればいいですか?
A. 小児救急電話相談「#8000」という全国共通の番号がある。かけると住んでいる都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師や看護師に相談できる仕組みだ。受付時間は都道府県によって違うので、あらかじめ自分の地域の時間帯を調べて、スマホに登録しておくといい。夜中に慌てて調べるより、先に用意しておくほうが確実だ。
Q. 痛みの場所を聞いても、子どもがうまく答えられません
A. 小さい子どもは、痛い場所を正確に指させないことが多い。だから無理に特定しようとしなくていい。それよりいつから痛がっているか、どんなときに強くなるか、他に症状はないかを覚えておくほうが役に立つ。受診したときも、そちらのほうが伝わりやすい。
Q. 受診するとき、何を伝えればいいですか?
A. 「いつから」「どのくらいの間隔で」「食事や排便との関係」「吐いたか、便の様子はどうか」「機嫌や元気はどうか」。この5つが揃っていれば十分だ。慌てているときは思い出せないものなので、待っている間にメモしておくといい。
まとめ
子どもの腹痛で親が判断すべきなのは、病名ではない。「今すぐか、朝までか」だけだ。
そしてその判断でいちばん頼りになるのは、痛みの強さでも体温でもなく、子ども全体の様子と、時間とともにどう変わっているかだと思う。
毎日見ている親だからこそ「いつもと違う」に気づける。ただ、その感覚だけで抱え込まないでほしい。「いつもと違う」と感じたなら、それは相談していい十分な理由になる。判断を自分ひとりで完結させる必要はない。迷ったときは#8000がある。
最終更新:2026年10月
参考
・日本小児救急医学会「エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017」
・日本小児救急医学会「小児急性虫垂炎診療ガイドライン」(2017年)
・日本小児救急医学会「エビデンスに基づいた小児腸重積症の診療ガイドライン 改訂第2版」(2022年)
・厚生労働省「子ども医療電話相談事業(#8000)」
※本記事は一般的な情報提供であり、筆者の専門は成人の消化器内科です。個別の診断・治療方針はかかりつけの小児科医にご相談ください。
