飲み続けた先に何があるか、内視鏡で見てきた
内視鏡で見えるもの
消化器内科医として毎日胃カメラ・大腸カメラをやっている。飲酒習慣のある患者では、内視鏡で見えるものに一定の傾向を感じることがある。胃の粘膜の荒れ、食道の炎症、大腸のポリープなどだ。もちろん全員ではないし、どれも飲酒だけで起こるものではない。内視鏡の所見だけで「お酒のせい」と決められるわけでもない。それでも、長年飲み続けた人によく出会うパターンではある。
この記事では、診療での印象とは分けて、研究でわかっているアルコールの肝臓・胃・食道・大腸への影響を整理する。主な対象は、持病のない大人だ。やめろという話ではなく、知った上で付き合ってほしいという話だ。ただし、アルコールによる肝臓の病気がある人など、お酒をやめる必要がある人もいる。病気で治療中の人や薬を飲んでいる人は、飲んでよいか主治医に確認してほしい。
この記事でわかること
・アルコールが肝臓・胃・食道・大腸に与える影響
・「適量なら体にいい」が今は通用しにくい理由
・飲酒量を「純アルコールのグラム」で考える方法と、受診のサイン
外来でよくある誤解:「適量なら体にいい」
「少しなら体にいいんですよね?」とよく聞かれる。ただ、WHO(世界保健機関)欧州地域事務局は2023年に「健康にとって安全と言える飲酒量はない」という声明を出している。少量でもリスクがゼロにはならない、という立場だ。
日本でも厚生労働省が2024年に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を出した。そこでは飲む量が少ないほど、飲酒によるリスクが少なくなるという報告が紹介され、リスクを理解したうえで自分に合った飲酒量を決めることが勧められている。「体にいいから飲む」のではなく、「飲むなら量を把握して減らす」が今の考え方に近い。
肝臓への影響:脂肪肝から肝硬変まで
アルコールの影響を大きく受けるのが肝臓だ。多量の飲酒を続けると、まず肝臓に脂肪がたまる脂肪肝が起こりやすい。この段階では自覚症状がほとんどなく、断酒による改善が期待できる。
飲み続けると、肝臓に炎症や線維化(硬くなること)が進み、肝硬変に至ることがある。また、だるさ・発熱・腹痛・黄疸などを伴う「アルコール性肝炎」を急に起こすこともある。肝硬変まで進むと元の状態に戻すのは難しいが、断酒によって進行を抑えたり、状態が改善したりすることもある。腹水や黄疸が出るほど悪化していた人でも、断酒を続けることで症状の落ち着いた段階に戻る「再代償化」が報告されていて、2026年版の肝硬変のガイドラインでも原因の治療の大切さが強調されている。
健診で「脂肪肝」と言われたままにしている人はこちらの記事を、肝機能の数値(γ-GTP・ALT・AST)の読み方は肝機能の数値の記事を読んでほしい。
胃・食道への影響
アルコールは胃の粘膜を傷つけ、胃炎の原因になることがある。また、胃と食道のさかい目のしまりをゆるめて、胃酸の逆流(胃食道逆流症)を悪化させることがある。「飲んだ後に胸焼けがする」という人は、逆流の症状が出ている可能性がある。
もう一つ知っておいてほしいのが食道がんのリスクだ。飲酒で増えるのは主に「扁平上皮がん」というタイプで、飲酒量が多い人ほどリスクが上がる。特に、少量で顔が赤くなる体質の人は、アルコールの分解でできるアセトアルデヒドが体にたまりやすい。そういう人が飲酒を続けると、慣れて平気で飲めるようになった後でも、食道がんのリスクが高くなることがわかっている。詳しくはお酒で顔が赤くなる人の記事に書いた。
大腸への影響
WHOの国際がん研究機関(IARC)は、アルコール飲料を「ヒトに対して発がん性がある」(グループ1)と分類していて、その対象となるがんに大腸がんが含まれている。飲む量が多いほどリスクが上がる。厚生労働省の2024年のガイドラインでは、日本人の研究をもとに、男女とも週150g以上の純アルコールで大腸がんのリスクが上がるという結果が紹介されている。1日平均では約20gにあたるが、それ未満なら安全という意味ではない。「少量なら関係ない」とは言い切れない領域だ。
大腸がんの予防についてはこちらの記事にまとめてある。
飲む量は「純アルコールのグラム」で考える
2024年の厚生労働省のガイドラインでは、飲む量を「何杯」ではなく、純アルコールのグラムで把握することを勧めている。計算は「飲む量(mL)×(アルコール度数÷100)×0.8」だ。たとえば、ビール500mL(5%)なら500×0.05×0.8=20g、日本酒1合(180mL・15%)なら約22gになる。
量の目安としてよく出てくるのが、国の健康づくり計画「健康日本21(第三次)」が減らす目標にしている「生活習慣病のリスクを高める量」=1日あたり男性40g以上、女性20g以上だ。ガイドラインでもこの数字が紹介されているが、同時に「個々人の許容量を示したものではない」と注意書きがある。つまり「ここまでなら安全」という線ではない。病気によってはもっと少ない量からリスクが上がり、女性や高齢の人、体質的にお酒に弱い人は、同じ量でも影響を受けやすい。
ガイドラインは、飲むときの工夫として「あらかじめ量を決めて飲酒をする」「一週間のうち、飲酒をしない日を設ける」などを挙げている。「週に何日休めばいい」という日数までは決められていない。毎日飲む習慣がある人は、まず飲まない日をつくる、1回の量を決めておく、といったところから始めるのが現実的だ。
ただし、長いあいだ毎日多く飲んでいる人や、お酒が切れると手の震え・汗などが出る人は、急にやめたり減らしたりすると離脱症状が出ることがある。自己判断で進めず、先に医療機関に相談してほしい(下のよくある質問にも書いた)。
こんなときは受診してほしい
- すぐに受診:血を吐いた、黒い便が出た、白目や皮膚が黄色い、お腹が急にふくらんできた、意識がぼんやりする
- 早めに相談:健診で肝臓の数値や脂肪肝を指摘された、胸焼けや飲み込みにくさが続く、お酒を減らしたいのに減らせない
よくある質問
Q. 休肝日をつくれば、毎日飲むのと比べて安心ですか?
A. 飲まない日をつくることは、全体の飲酒量を減らすうえで役に立つ。ただし、その前後にまとめて多く飲むと、合計の量が減らないうえ、急性アルコール中毒やけがのリスクも高まる。厚生労働省のガイドラインも、1回に純アルコール60g以上を飲むような一時多量飲酒は避けるべきとしている。1週間あたりの合計の量を減らすことと、1回に多く飲まないことの両方が大切だ。
Q. お酒をやめたいのに、やめられません。
A. 自分だけでやめるのが難しいのは、珍しいことではない。かかりつけ医や、アルコール外来・専門の医療機関、精神保健福祉センターなどに相談できる。長いあいだ毎日多く飲んでいる人や、お酒が切れると手の震え・汗などが出る人は、やめたり減らしたりしたときに離脱症状が出ることがある。重いとけいれんや意識の混乱が起こるので、自己判断で進めず、医療機関に相談しながら安全に取り組んでほしい。
まとめ
- 「適量なら体にいい」より、「少ないほどリスクが少ない」が今の考え方
- 肝臓:脂肪肝から、炎症や線維化が進んで肝硬変に至ることがある。急なアルコール性肝炎にも注意
- 胃・食道:胃炎・逆流の悪化・食道がんリスク。顔が赤くなる人は特に注意
- 大腸:飲む量が多いほど大腸がんのリスクが上がる
- 飲む量は純アルコールのグラムで把握し、飲まない日や1回の量を決めて減らす。まとめ飲みは避ける
飲むなという話ではない(肝臓の病気などでやめる必要がある人は別だ)。ただ、内視鏡で見続けてきた立場から言うと、知らずに飲み続けるより、知った上で量を見直すほうが、先々の体を守る一歩になると思っている。
最終更新:2026年11月
参考
・厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月)
・厚生労働省「健康日本21(第三次)」
・厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと依存」
・WHO Regional Office for Europe「No level of alcohol consumption is safe for our health」(2023年1月)
・国際がん研究機関(IARC)Monographs Volume 100E(2012年、アルコール飲料)
・米国消化器病学会(ACG)Clinical Guideline: Alcohol-Associated Liver Disease(2024年)
・日本消化器病学会・日本肝臓学会『肝硬変診療ガイドライン2026(改訂第4版)』
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
