「先生、薬の選択肢が多すぎてよくわからないんですが……」

IBD(炎症性腸疾患)の患者さんから、こう言われることが増えました。潰瘍性大腸炎やクローン病の治療薬は、ここ数年で急激に増えています。

消化器内科医として毎日IBDの患者さんを診ている立場から、「今どんな薬があって、なぜ人によって違う薬が使われるのか」をできるだけわかりやすく整理します。

※本記事は2026年4月現在の情報をもとに作成しています。新薬の承認状況は随時変わるため、治療の詳細は主治医にご確認ください。

昔は「薬がなかった」時代もあった

少し前まで、IBDの治療は選択肢が限られていました。5-ASA(炎症を抑える基本薬)とステロイドで何とかして、それでも効かなければ免疫抑制薬、さらに効かなければ手術——そういう時代が長く続きました。

それが2000年代以降、「生物学的製剤」という新しいタイプの薬が登場し、治療の選択肢が一気に広がりました。そして2020年代に入ってからは、飲み薬タイプの新薬も次々と承認され、今では10種類以上の選択肢がある状態です。

薬の種類をざっくり整理すると

難しい名前が並んでいますが、大きく分けると以下のようになります。

①飲み薬(従来型)

もっとも基本的な治療薬です。メサラジン(5-ASA)は軽症〜中等症の潰瘍性大腸炎の基本治療として今も広く使われています。ステロイドは急性期に使いますが、長期間は使えません。

②注射・点滴の薬(生物学的製剤)

腸の炎症を引き起こす特定のタンパク質(TNF、インテグリン、IL-23など)をピンポイントで抑える薬です。点滴や皮下注射で投与します。従来の薬で効果が不十分な中等症〜重症の患者さんに使われます。

代表的なものに「インフリキシマブ(レミケード)」「ベドリズマブ(エンタイビオ)」「ミリキズマブ(オンボー)」などがあります。

③新しい飲み薬(低分子化合物)

「注射は嫌だ」という方に朗報なのが、近年登場した飲み薬タイプの新薬です。

  • JAK阻害薬(ウパダシチニブ〈リンヴォック〉など):炎症に関わる細胞内シグナルを遮断。効果が出るのが速い。
  • S1P調節薬(オザニモド〈ゼポジア〉):免疫細胞が腸に集まるのを防ぐ新しい仕組みの薬。2024年末に日本で承認。
  • 経口インテグリン阻害薬(カロテグラストメチル〈カログラ〉):世界初の飲めるインテグリン阻害薬として2022年に登場。

④体外循環療法(GCAP/LCAP)

血液を体外に取り出して炎症に関わる白血球を除去し、戻す治療法です。薬が使いにくい方(副作用が心配な方など)にも選択肢になります。日本独自の治療法として発展してきました。

なぜ人によって薬が違うのか

「同じ潰瘍性大腸炎なのに、なぜあの人と自分で薬が違うんだろう」と思ったことはありませんか。

答えはシンプルで、IBDの治療はいまや「オーダーメイド」だからです。

薬を選ぶときには、病気の重さだけでなく、以下のような条件が関係してきます。

  • 妊娠を希望しているか、妊娠中かどうか
  • 腸以外の症状(関節痛・皮膚・目など)があるかどうか
  • 心臓や血管の病気のリスク
  • 過去に使った薬で効かなかったものがあるかどうか
  • 注射が苦手か、飲み薬の方がいいか

同じ「重症の潰瘍性大腸炎」でも、妊娠希望の20代女性と70代の男性では最適な薬が変わります。これが「人によって薬が違う」理由です。

新しい薬は安全なの?という疑問に答えると

新しい薬が登場するたびに「副作用は大丈夫?」と心配される方は多いです。正直に言うと、どの薬にも副作用はあります。それは従来の薬も同じです。

重要なのは、その薬のメリットが、その患者さんにとってのリスクを上回るかどうかです。医師はその天秤を患者さんごとに考えて薬を選んでいます。

たとえばJAK阻害薬(飲み薬)は効果が出るのが速い一方で、帯状疱疹のリスクや、心血管系のリスクが高い方には慎重な判断が必要です。一方、「腸だけに効く」設計のベドリズマブは全身への影響が少なく、妊娠中や感染リスクの高い方に向いています。

「なぜこの薬を勧められたのか」が気になるときは、遠慮なく主治医に聞いてみてください。きちんと理由があるはずです。

まとめ

  • IBDの治療薬はここ数年で大幅に増え、注射・飲み薬ともに選択肢が広がった
  • 薬の種類は「従来の飲み薬」「生物学的製剤(注射・点滴)」「新しい飲み薬」「体外循環療法」に大別できる
  • 人によって薬が違うのは「オーダーメイド治療」だから。妊娠・合併症・リスクなどで最適解が変わる
  • どの薬にも副作用はある。大事なのはその人にとってメリットがリスクを上回るかどうか

選択肢が増えることは、患者さんにとって「自分に合った治療を選べる可能性が広がる」ということです。難しく感じたときは、主治医と一緒に整理してみてください。

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コンビニ医
消化器内科医10年目。内視鏡専門医・大学院生・2児の父。 忙しい勤務医目線で「本当に使えるもの」「本当に正しい医療情報」だけを発信します。