潰瘍性大腸炎・クローン病の治療薬、こんなに増えてたんです【2026年4月現在】|消化器内科医が整理してみた
「先生、薬の選択肢が多すぎてよくわからないんですが……」
IBD(炎症性腸疾患)の患者さんから、こう言われることが増えました。潰瘍性大腸炎やクローン病の治療薬は、ここ数年で急激に増えています。
消化器内科医として毎日IBDの患者さんを診ている立場から、「今どんな薬があって、なぜ人によって違う薬が使われるのか」をできるだけわかりやすく整理します。この記事では、主な薬物治療と血球成分除去療法を紹介します(栄養療法や手術については扱っていません)。
※本記事は2026年4月に公開し、2026年10月時点の国内の承認情報で内容を確認・更新しています。新薬の承認状況は随時変わるため、治療の詳細は主治医にご確認ください。
この記事でわかること
・潰瘍性大腸炎・クローン病の治療薬の大まかな種類
・潰瘍性大腸炎とクローン病で、使える薬が違うこと
・なぜ人によって勧められる薬が違うのか
以前は、今ほど治療の選択肢が多くなかった
少し前まで、IBDの治療は選択肢が限られていました。5-ASA(炎症を抑える基本薬)とステロイド、免疫を調整する薬などを組み合わせて治療していました。
それが2000年代以降、「生物学的製剤」という新しいタイプの薬が登場し、治療の選択肢が一気に広がりました。そして2020年代に入ってからは、飲み薬タイプの新薬も次々と承認されています。なお、手術は「薬が全部効かなかったときの最後の手段」ではなく、病状や合併症によっては、適切なタイミングで選ぶべき治療の一つです。
外来でよくある誤解:「潰瘍性大腸炎とクローン病は、同じ薬が使える」
どちらも「炎症性腸疾患(IBD)」とまとめて呼ばれるので、同じ薬が使えると思われがちです。でも実際は、潰瘍性大腸炎だけに承認されている薬、両方に使える薬があります。さらに、同じ病気でも「中等症以上」「既存の治療で効果が不十分な場合」など、使える条件が決まっている薬も多いです。ネットで見た新しい薬が、自分の病気や病状に使えるとは限りません。
治療薬・治療法を大きく整理すると
①飲み薬・坐薬など(従来から使われている薬)
メサラジン(5-ASA)は、軽症〜中等症の潰瘍性大腸炎の基本治療として今も広く使われています。ステロイドは炎症が強いときに使いますが、効果を保つ目的(寛解維持)には使わず、少しずつ減らして中止を目指します。
②注射・点滴の薬(生物学的製剤)
腸の炎症に関わる特定のタンパク質(TNF、インテグリン、IL-23など)を狙って抑える薬です。点滴や皮下注射で使います。従来の薬で効果が不十分な中等症〜重症の患者さんに使われることが多い薬です。
代表的なものに「インフリキシマブ(レミケード)」「ベドリズマブ(エンタイビオ)」「ミリキズマブ(オンボー)」などがあります。たとえばミリキズマブは、2023年に潰瘍性大腸炎、2025年にクローン病で承認されています。
③新しい飲み薬(低分子化合物)
「注射は苦手」という方にとって選択肢が増えたのが、近年登場した飲み薬タイプの新薬です。ただし、薬ごとに対象となる病気と条件が違います。
- JAK阻害薬(ウパダシチニブ〈リンヴォック〉など):炎症に関わる細胞の中のシグナルを抑える薬。比較的早く症状の改善が期待できる場合があります。
- S1P受容体調節薬(オザニモド〈ゼポジア〉・2024年12月承認、エトラシモド〈ベルスピティ〉・2025年6月承認):免疫細胞が腸に集まりにくくする仕組みの薬。いずれも、既存の治療で効果が不十分な中等症〜重症の潰瘍性大腸炎が対象です。
- 経口α4インテグリン阻害薬(カロテグラストメチル〈カログラ〉):飲み薬のα4インテグリン阻害薬として世界で初めて承認された薬(2022年)。5-ASAで効果が不十分な中等症の潰瘍性大腸炎が対象です。
④血球成分除去療法
血液を体外に取り出し、炎症に関わる血球を吸着・除去して体に戻す治療です。日本では、アダカラムを使った顆粒球・単球の吸着除去療法や、イムノピュアを使った吸着療法が選択肢になります。薬ではないので、薬が使いにくい方の選択肢になることもあります。対象となる病状や保険適用は、機器によって異なります。
なぜ人によって薬が違うのか
「同じ潰瘍性大腸炎なのに、なぜあの人と自分で薬が違うんだろう」と思ったことはありませんか。
答えはシンプルで、IBDの治療はいまや「その人に合わせて選ぶ」ものだからです。薬を選ぶときには、病気の種類と重さ、病変の広がりだけでなく、以下のような条件が関係してきます。
- 妊娠を希望しているか、妊娠中かどうか
- 腸以外の症状(関節痛・皮膚・目など)があるかどうか
- 心臓や血管の病気のリスク、感染症のリスク
- 過去に使った薬で効かなかったものがあるかどうか
- 注射が苦手か、飲み薬の方がいいか、通院の頻度
同じ「重症の潰瘍性大腸炎」でも、妊娠希望の20代女性と70代の男性では、選ぶ薬が変わることがあります。これが「人によって薬が違う」理由です。
新しい薬は安全なの?という疑問に答えると
新しい薬が登場するたびに「副作用は大丈夫?」と心配される方は多いです。正直に言うと、どの薬にも副作用はあります。それは従来の薬も同じです。
重要なのは、その薬のメリットが、その患者さんにとってのリスクを上回るかどうかです。医師はその天秤を患者さんごとに考えて薬を選んでいます。
たとえばJAK阻害薬(飲み薬)は、帯状疱疹のリスクや、心臓・血管のリスクが高い方には慎重な判断が必要です。ベドリズマブは腸に選択的に作用する薬ですが、感染症などの副作用がなくなるわけではありません。妊娠中の使用や、感染症のリスクが高い方への使用は、どの薬でも、病気の勢いや治療歴、ほかの病気をふまえて、利益とリスクを個別に判断します。
「なぜこの薬を勧められたのか」が気になるときは、遠慮なく主治医に聞いてみてください。きちんと理由があるはずです。
よくある質問
Q. ネットで見た新しい薬を使ってみたいです。
A. まず、その薬があなたの病気(潰瘍性大腸炎かクローン病か)と病状に承認されているかが前提になります。そのうえで、今の治療の効果や副作用、生活の事情をふまえて主治医と相談してください。
Q. 調子がいいので、自分の判断で薬をやめてもいいですか?
A. やめないでください。調子がいいのは薬が効いているからかもしれず、自己判断で中止すると再燃することがあります。減らす・やめることを考えたいときは、主治医に相談してください。
Q. 妊娠を考えています。薬はどうなりますか?
A. 薬によって考え方が違います。妊娠を考えはじめた段階で、早めに主治医に伝えてください。病気が落ち着いた状態で妊娠を迎えられるよう、治療を計画することが大切です。
まとめ
- IBDの治療薬はここ数年で大幅に増え、注射・飲み薬ともに選択肢が広がった
- 潰瘍性大腸炎とクローン病で、使える薬や条件が違う
- 大きく分けると「従来の薬」「生物学的製剤(注射・点滴)」「新しい飲み薬」、そして薬ではない「血球成分除去療法」がある
- 人によって薬が違うのは、病気・病状・妊娠・合併症などで最適な選択が変わるから
- どの薬にも副作用はある。大事なのはその人にとってメリットがリスクを上回るかどうか
選択肢が増えることは、患者さんにとって「自分に合った治療を選べる可能性が広がる」ということです。難しく感じたときは、主治医と一緒に整理してみてください。
最終更新:2026年10月
参考
・厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針』令和7年度改訂版(2026年3月)
・日本消化器病学会「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第2版)」
・各薬剤の国内承認情報(ブリストル・マイヤーズ スクイブ、ファイザー、キッセイ薬品工業、持田製薬・日本イーライリリー、武田薬品工業の公表資料)
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
