ピロリ菌、除菌した方がいい?消化器内科医が正直に答えます
「ピロリ菌がいますね」と言われたとき、多くの人がまず気にするのは「それで、除菌したほうがいいんですか?」ということだ。感染が確認されたなら、原則として除菌が検討される。ただ、その理由を「胃がんになるから」の一言で済ませてしまうと、大事なところが抜け落ちる。
この記事でわかること
・除菌で胃がんリスクがどれくらい下がるのか(数字の読み方)
・保険で除菌を受けるとき、胃カメラが必要になる場合
・除菌の薬がこの10年で変わり、成功率が上がったこと
ピロリ菌とは何か
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜に住みつく細菌だ。強い酸のなかでも生き続けられる、かなり特殊な菌である。
感染してもほとんどの人は症状が出ない。日本では感染の多くが5歳くらいまでの乳幼児期に成立するとされ、上下水道が十分でなかった時代に育った世代に保菌者が多い。若い世代の感染率は大きく下がっており、10歳未満では1割を下回る。
症状がないことは、いないことの証明にならない。何十年も居座ったまま、胃の粘膜を静かに変えていく——それがこの菌のやっかいなところだ。
なぜ除菌をすすめるのか——数字は「誰の話か」で変わる
理由はシンプルで、胃がんのリスクを下げられるからだ。ピロリ菌感染は胃がんの最も重要なリスク因子であり、感染者には除菌がすすめられる。
では、どれくらい下がるのか。ここで注意してほしいことがある。ネット上には効果の数字がいくつも流通しているが、それぞれ対象にしている人が違う。混ぜて読むと誤解する。
まだ胃がんになっていない人が、予防のために除菌する場合
複数のランダム化比較試験とそのメタ解析で、除菌によって胃がんの発症が有意に抑えられることが示されている。報告によって幅はあるが、おおむね3〜5割程度の相対的なリスク低下とされることが多い。
ただし、この幅には理由がある。もともとの胃がんリスク(年齢・粘膜の萎縮の程度・家族歴)、追跡した期間、対象となった地域によって、効果の見え方は変わる。「誰が除菌しても一律に何割下がる」という数字ではないと理解しておいてほしい。
早期胃がんを内視鏡で切除したあとの人
こちらは別の話になる。早期胃がんを内視鏡で取ったあと、胃の別の場所に新しいがんができることがある(異時性胃がん)。
日本で行われた多施設のランダム化比較試験では、除菌した群の異時性胃がんの発生は、除菌しなかった群と比べてオッズ比0.35(95%信頼区間 0.16〜0.78)だった。おおよそ3分の1程度に抑えられた、という結果である。
「除菌すると胃がんが3分の1になる」という言い方は、この数字が元になっている。健康な人が予防目的で除菌したときの効果とは対象が違うので、そのまま自分に当てはめないほうがいい。
もっとも、予防目的の「3〜5割低下」も十分に大きい。1週間の内服で長期のリスクがそれだけ動く介入は、そう多くない。
なお、ピロリ菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍・機能性ディスペプシア・鉄欠乏性貧血とも関連している。がんの話を抜きにしても、除菌の利益が期待できる場面は多い。ただし、抗菌薬の副作用や飲んでいる薬との相互作用、年齢や併存疾患を踏まえて、最終的には主治医と個別に判断することになる。
外来でよくある誤解:「除菌したから、もう胃カメラは要らない」
これがいちばん多い。そして、いちばん惜しい。
除菌はリスクを下げるが、ゼロにはしない。除菌後も胃がんのリスクは長期にわたって残ることが知られている。
菌がいなくなると、多くの人では胃の炎症がおさまり、萎縮性胃炎の進行も止まる。改善していく人もいる。ただしすでに進んだ萎縮や腸上皮化生は、除菌後も残ることがある。胃がんは、そうした変化した粘膜から出てくる。
だから、除菌後に胃カメラを続けるかどうかは「除菌したから」で決まるのではなく、除菌した時点でどれだけリスクが残っているかで決まる。粘膜の萎縮の程度、年齢、胃がんの既往、家族歴——このあたりを見て、必要性と間隔を主治医と相談してほしい。
「除菌したから安心」で検査をやめてしまうのは、いちばんもったいない選択だ。萎縮の程度とその後の考え方は「萎縮性胃炎ですね」と言われたまま、放置していませんかで整理している。
検査には、胃カメラを使うものと使わないものがある
胃カメラを使う方法
検査中に胃の粘膜を少し採って調べる。培養・迅速ウレアーゼ試験・鏡検といった方法があり、菌がいるかどうかを直接確かめられる。
胃カメラを使わない方法
- 尿素呼気試験:薬を飲んで、その前後の呼気を採る。精度が高く、除菌前の診断にも除菌の判定にもよく使われる
- 便中抗原検査:便を採って菌の抗原を調べる。こちらも精度が高く、除菌判定に使える
- 血中抗体検査:採血で調べる。手軽だが、過去の感染でも陽性になるため、いま感染しているかの判断には向かない。除菌が成功しても抗体価が下がるまで半年以上かかるので、除菌直後の判定には使えない
「感染胃炎」として保険で除菌するには、胃カメラが要る
ここは意外と知られていない。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎として保険診療で除菌する場合は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)で胃炎を診断していることが必要になる。健診の血液検査で抗体が陽性だっただけでは、そのまま除菌には進めない。
ただし、これは「感染胃炎」として除菌する場合の話だ。胃・十二指腸潰瘍、早期胃がんの内視鏡治療後、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などには、それぞれ別に保険適用がある。すでにこれらの診断がついている人は、事情が変わる。
「採血で陽性と言われたので薬をください」と来られる方は多い。二度手間に感じるかもしれないが、この機会に胃の中そのものを見ておく意味は大きい。すでにがんができていないか、萎縮がどこまで進んでいるか——除菌するかどうかとは別に、知っておく価値がある。
胃カメラそのものが不安な人は、胃のこと、正しく知ればこわくないもあわせて読んでほしい。
除菌の薬は、この10年で変わった
ネットには古い情報が多く残っている領域なので、現在の考え方を書いておく。
以前:PPIベース
かつての標準は、胃酸を抑えるPPI(プロトンポンプ阻害薬)に抗菌薬2種類を組み合わせた1週間の三剤療法だった。
弱点のひとつが、PPIの効き方に個人差が大きかったことだ。CYP2C19という酵素の遺伝子のタイプによって薬の分解される速さが変わり、胃酸が十分に抑えられない人が一定数いた。抗菌薬は胃酸が強い環境では働きにくいので、そこで成績が落ちる。
ただし、除菌がうまくいかない最大の原因は、薬の効き方の個人差よりも抗菌薬に対する耐性菌だ。とくにクラリスロマイシンに耐性を持つピロリ菌が増えたことが、除菌率を押し下げてきた。
現在:PCABベース
いまの標準はPCAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)で、日本ではボノプラザンが使われている。PPIより強く安定して胃酸を抑えられ、遺伝子のタイプによる差も受けにくい。1週間の三剤療法として比較したとき、PCABを用いたほうがPPIより除菌成績が優れることが示されている。
日本ヘリコバクター学会の資料では、ボノプラザンを含む三剤療法での一次除菌の成功率はおよそ7〜9割、一次で失敗した場合の二次除菌はおよそ9割とされている。使う薬の組み合わせや耐性菌の状況によって数字は動くので、幅があると考えてほしい。
「昔、除菌に失敗したから」とあきらめている人がいるが、当時とは薬が違う。もう一度相談する価値は十分にある。
なお、除菌したあとは成功したかどうかの判定が必須だ。実際の治療の流れ、副作用、判定のタイミングについてはピロリ菌を除菌したら、その後どうなるのかにまとめている。
よくある質問
Q. 症状がまったくないのに、除菌する意味はありますか?
A. あります。ピロリ菌に感染していても症状が出ないことがほとんどで、症状の有無とリスクの大きさは一致しません。むしろ「症状がないまま何十年も感染が続いていた」ことのほうが問題になります。
Q. 高齢だと、いまさら除菌しても遅いですか?
A. 若いうちに除菌するほど、得られる利益が大きいのは事実です。ただし高齢だから無意味ということではありません。一方で、抗菌薬の副作用、飲んでいる薬との相互作用、併存している病気、粘膜の状態など、考えるべきことも増えます。年齢だけで決まる話ではないので、主治医と個別に相談してください。
Q. 家族も検査したほうがいいですか?
A. 現在の日本での感染経路は、家族内、とくに母親から子へ、次いで父親から子への感染が中心と考えられています。親が陽性だった場合、子どもの感染を心配される方は多く、相談していただいてかまいません。なお、きょうだい間の感染については、明確な差を示すデータは今のところ限られています。家族全員に一律の検査をすすめる、という性質のものではありません。
Q. 除菌したあと、胸やけが出るようになりました
A. 除菌によって胃酸の分泌が回復し、逆流症状や逆流性食道炎が出たり悪化したりすることがあります。重症化することはほとんどありませんが、症状が続くようなら治療の対象になるので受診してください。
まとめ
- 感染が確認されたら、原則として除菌が検討される。ただし年齢・併存疾患・併用薬をふまえた個別判断になる
- 予防目的の除菌では、胃がんリスクがおおむね3〜5割低下すると報告されている(対象や追跡期間で幅がある)
- 「3分の1になる」は早期胃がんの内視鏡治療後の数字で、健康な人の話ではない
- 除菌してもリスクはゼロにならない。残っているリスクに応じて、胃カメラを続けるかどうかを相談する
- 感染胃炎として保険で除菌するには胃カメラでの診断が必要。潰瘍やESD後などには別の適応がある
- 薬はPPIからPCABへ。除菌がうまくいかない最大の原因は耐性菌
胃がんのリスク因子はピロリ菌だけではない。塩分・喫煙・家族歴を含めた全体像は胃がんのリスクと予防で整理している。
参考
・日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン 2024改訂版」
・日本ヘリコバクター学会 医師向け資料(ピロリ菌感染症の診断と治療)
・Fukase K, et al. Lancet. 2008;372(9636):392-397.(早期胃がん内視鏡切除後の異時性胃がんに対する除菌効果)
・国立がん研究センター がん情報サービス
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
最終更新:2026年8月
