内視鏡で見えるもの

消化器内科医として毎日胃カメラ・大腸カメラをやっている。飲酒習慣のある患者では、内視鏡所見に一定の傾向が見られることがある。胃粘膜の荒れ、食道の炎症、大腸ポリープの増加などだ。もちろん全員ではないが、長年飲み続けた人に共通するパターンとして経験される。

「適量なら体にいい」という話を信じている人は多い。ただ、WHO(世界保健機関)は2023年に「アルコールに安全なレベルは存在しない」という声明を出している。これはリスクがゼロにならないという意味で、少量でも何らかのリスクは残るという立場だ。この記事では、アルコールが肝臓・胃・大腸にどう影響するかを整理する。やめろという話ではなく、知った上で付き合ってほしいという話だ。

肝臓への影響:脂肪肝から肝硬変まで

アルコールの影響を最も受けるのが肝臓だ。飲酒を続けると最初に起きるのが脂肪肝。肝臓に脂肪が蓄積した状態で、この段階では自覚症状がほとんどない。飲酒をやめれば改善できる段階だが、放置するとアルコール性肝炎に進む。

アルコール性肝炎では肝細胞に炎症が起き、全身倦怠感・腹痛・発熱が出ることもある。さらに進行すると肝硬変となり、肝臓が線維化して機能が失われる。肝硬変は元に戻らない。

健診で「脂肪肝」と言われたままにしている人はこちらの記事を、肝機能の数値(γ-GTP・ALT・AST)の読み方は肝機能異常の記事で詳しく解説している。

胃・食道への影響

アルコールは胃粘膜を直接刺激し、胃炎を起こしやすくする。また下部食道括約筋を緩めるため、胃酸の逆流(逆流性食道炎)を悪化させる。「飲んだ後に胸焼けがする」という人は、逆流性食道炎の症状が出ている可能性が高い。

もう一つ知っておいてほしいのが食道がんリスクだ。飲酒量が多い人ほどリスクが上がる。特にお酒を飲むと顔が赤くなる人(ALDH2活性が低い体質、いわゆるフラッシャー)は、アセトアルデヒドの分解が遅く食道がんリスクが顕著に高いことがわかっている。

大腸への影響

飲酒は大腸がんのリスク因子としてWHO国際がん研究機関(IARC)が認定している。リスクは用量依存的に増加し、飲む量が多いほどリスクが上がる。「少量なら関係ない」とは言い切れない領域だ。

大腸がんの予防についてはこちらの記事にまとめてある。

「適量」の目安と休肝日

日本では厚生労働省が「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコール約20gを目安としている。ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイングラス2杯程度に相当する。ただしこれは「安全な量」ではなく「リスクを下げるための目安」だ。女性・高齢者・肝疾患のある人はさらに少なくする必要がある。

週に2日以上の休肝日を設けることも推奨されることが多い。毎日飲み続けると肝臓が休む間もなくダメージが蓄積するためだ。毎日飲む習慣がある人はまずここから始めるのが現実的だ。

まとめ

  • アルコールに「安全な量」はないというのが現在の医学的見解
  • 肝臓:脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変と段階的に進行する
  • 胃・食道:胃炎・逆流性食道炎・食道がんリスクが上がる
  • 顔が赤くなる人(ALDH2活性が低い体質)は食道がんリスクが特に高い
  • 大腸:飲酒量に比例して大腸がんリスクが上がる
  • 1日純アルコール20g以内・週2日以上の休肝日が目安

飲むなという話ではない。ただ、内視鏡で見続けてきた立場から言うと、知らずに飲み続けるのと知った上で付き合うのとでは、10年後が変わってくる。

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コンビニ医
消化器内科医10年目。内視鏡専門医・大学院生・2児の父。 忙しい勤務医目線で「本当に使えるもの」「本当に正しい医療情報」だけを発信します。