胃がんのリスク、ピロリ菌だけじゃない——予防と定期検査の考え方
胃がんは日本人に多いがんの一つだ。年齢で調整した罹患率・死亡率は年々下がってきているが、高齢化が進んでいるため、実際の人数で見ると事情が少し違う。2023年には10万人以上が新たに胃がんと診断され、2024年には約3万8千人が胃がんで亡くなっている。決して過去の病気ではない。
「ピロリ菌を除菌したから大丈夫」と思っている人は多い。ただ、除菌してもリスクがゼロにはならないこと、ピロリ菌以外にも複数のリスク因子があることはあまり知られていない。
この記事でわかること
・胃がんの主なリスク因子(ピロリ菌だけではない)
・ピロリ菌除菌後も注意が必要な理由
・検診と、診療としてのフォローの違い
胃がんの主なリスク因子
ピロリ菌(最大のリスク)
胃がんの原因として最も重要なのがピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)だ。日本の胃がんの大部分は、ピロリ菌感染歴を持つ人に起こる。炎症のない胃の粘膜からいきなり胃がんが発生する割合は、非常に少ないとされている。
ピロリ菌は胃の粘膜を慢性的に傷つける。そこから萎縮性胃炎、腸上皮化生を経て胃がんへ進む——これは代表的な経路のひとつとして知られている。ただし、すべての胃がんが必ずこの順序をたどるわけではない。いずれにしても、長い年月をかけて進むことが多い。
ピロリ菌について詳しくは→ピロリ菌、除菌した方がいい?
塩分・塩蔵食品
食塩や塩蔵食品(漬物・塩辛・干物など)の多い食事は、胃がんのリスクを上げることが「ほぼ確実」と評価されている(国立がん研究センターの研究班による評価)。とくに高塩分の食品を頻繁に食べる習慣は避けたい。あわせて野菜・果物を摂ることも勧められている。
喫煙
喫煙は胃がんのリスクを高める。国立がん研究センターの研究では、たばこを吸う人の胃がんリスクは吸ったことがない人と比べて、男性で約1.8倍、女性で約1.2倍、全体で約1.6倍と報告されている。
ここで注目したいのは、男女で差が大きいことだ。男性では1.8倍と明確にリスクが上がる。女性の1.2倍という数字は差が小さく、推定の幅も広いとされているが、リスクが下がるわけではないし、胃がん以外への影響もある。禁煙すれば、時間とともにリスクは下がっていく。
家族歴
親・兄弟・子どもなど一親等に胃がんの人がいる場合、リスクが高くなるとされている。遺伝的な要因に加えて、家族内でのピロリ菌感染も関係している。日本ではピロリ菌の感染経路として、母から子への感染、次いで父から子への感染が主と考えられている。
家族歴がある場合、まず自分自身のピロリ菌感染の有無を確認しておく価値がある。家族の検査については、年齢や感染状況、お住まいの自治体の制度などによって考え方が変わるので、主治医に相談してほしい。
外来でよくある誤解
「ピロリ菌を除菌したから、もう胃がんの心配はない」——外来でよく耳にする言葉だ。
実際には、除菌によって胃がんの発症リスクは下がる。これは研究班の評価でも「確実」とされている。ただし、ゼロにはならない。除菌前にすでに萎縮性胃炎や腸上皮化生が進んでいた場合、除菌後も胃がんが発生することがある。
日本ヘリコバクター学会のガイドライン(2024改訂版)でも、除菌後にも胃がんのリスクが長期にわたって持続すること、そのためリスクに応じた定期的な検査を続けることの重要性が示されている。除菌に成功しても、そこで終わりではないということだ。
ピロリ菌除菌後のフォローについて詳しくは→ピロリ菌を除菌したら、その後どうなるのか
予防のために今できること
- ピロリ菌検査・除菌:感染していれば除菌を受ける。胃がんリスクを下げる重要な対策のひとつだ
- 塩分を控える:塩蔵食品の摂りすぎを避け、野菜・果物を積極的に摂る
- 禁煙:喫煙している場合は禁煙することでリスクを下げられる
- 検査を受ける機会をつくる:早期に見つかれば、選べる治療の幅が広くなる
検診と、診療としてのフォローは別物
ここは混同されやすいところなので、分けて書いておきたい。
① 症状のない人が受ける「検診」
自治体などが行う胃がん検診は、国の指針で50歳以上・2年に1回とされている(胃X線検査か胃内視鏡検査のいずれか。当分の間、胃X線検査は40歳以上・年1回でも差し支えないとされている)。
一方、国立がん研究センターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」では、胃内視鏡検査による検診は50歳以上・2〜3年とすることが可能とされている。「2年に1回」と「2〜3年」で数字が違って見えるのは、前者が実際に検診を行うための国の指針、後者が有効性を評価したガイドラインという、別のものを指しているためだ。
ただし、自治体によって対象年齢も方式(内視鏡かバリウムか)も違うので、お住まいの自治体の案内を確認してほしい。
また、検診には利益だけでなく不利益もある。がんでないのに疑わしいと判定されること(偽陽性)、生命に影響しなかったかもしれない病変を見つけて治療につながること(過剰診断)、検査そのものによる出血や穿孔などだ。ゼロリスクの検査ではないという前提は持っておいてほしい。
② リスクがある人の「診療としてのフォロー」
ピロリ菌に感染している人、除菌した人、萎縮性胃炎が進んでいる人などは、検診とは別に、診療の中で定期的な内視鏡検査を勧められることがある。
ここで大事なのは、「何年ごと」という一律の基準が決まっているわけではないということだ。萎縮や腸上皮化生の程度、年齢、胃がんの既往、家族歴——こうしたものを踏まえて、担当医が個別に判断する。だから「ネットで1年ごとと書いてあった」と当てはめるのではなく、自分の胃を実際に見た医師と決めてほしい。
③ 症状がある場合は、検診ではなく受診
これは意外と知られていない。検診はあくまで「症状のない人」が対象だ。
胃の症状が続いている、食欲が落ちた、体重が減ってきた、黒い便が出た——こうしたことがあるなら、検診の時期を待たずに医療機関を受診してほしい。「次の検診まであと1年あるから」と待つ場面ではない。
胃カメラについて詳しくは→胃カメラを怖がる人が知らない、たった一つのこと
よくある質問
Q. ピロリ菌が陰性なら、胃がんの心配はないですか?
A. ここは「陰性」の意味を分けて考える必要がある。
一度も感染したことがない人(未感染)であれば、胃がんのリスクはかなり低い。一方で、除菌した人や、萎縮が進んで菌が自然にいなくなった人も検査上は「陰性」になる。この場合はリスクが残っているので、同じ「陰性」でも意味がまったく違う。
また、感染歴のない胃がんもごくまれに起こる。自分がどちらの「陰性」なのかは、胃の状態を見ないと分からないことも多いので、一度は確認しておくといい。
Q. 胃がんは遺伝しますか?
A. はっきりした遺伝性胃がんは、全体から見るとごく一部に限られる。多くの胃がんはピロリ菌・食生活・喫煙などの環境要因が主な原因と考えられている。ただし家族歴がある場合は、検査を始める時期や間隔について主治医に相談してほしい。
Q. 胃がんの早期症状はありますか?
A. 早期の胃がんは症状がないことが多い。ただし「症状がある=進行している」とも限らない。正確に言えば、症状の有無だけで早期か進行かを見分けることはできないということだ。
だからこそ、症状がない段階で検査を受ける意味がある。そして症状があるなら、それは検診ではなく受診の場面になる。
Q. 40代ですが、胃カメラを受けたほうがいいですか?
A. 年齢だけで一律には決まらない。検診としての内視鏡は50歳以上が対象とされているが、それより若くても、症状がある場合、ピロリ菌に感染している、または除菌したことがある場合、萎縮性胃炎を指摘されたことがある場合、家族歴がある場合などは、検査を勧められることがある。
逆に言えば、まず確認したほうがいいのはピロリ菌の感染状況だ。そこが分かると、その後の見通しが立てやすくなる。
まとめ
胃がんのリスクはピロリ菌だけではない。塩分・喫煙・家族歴も関わってくる。そしてピロリ菌を除菌してもリスクはゼロにならないので、除菌後も定期的な検査が必要になる。
覚えておいてほしいのは、早期の胃がんは症状が出ないことが多いということだ。つまり「症状がないから大丈夫」ではなく、症状に関係なく検査を受けることに意味がある。逆に症状があるなら、検診を待たずに受診してほしい。
そして間隔については、ネットの数字ではなく自分の胃を実際に見た医師と決める。ここがいちばん確実だ。
参考
・国立がん研究センター がん情報サービス「胃[がん統計]」
・国立がん研究センター「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」
・国立がん研究センター がん対策研究所「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」(喫煙・食塩摂取と胃がんリスク)
・日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」(2024年)
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
最終更新:2026年9月
