「前に膵炎になったけど、治療してもう治りましたよ」——外来でこう言われることがある。数値も落ち着いて、痛みも引いた。だから「治った」と思う気持ちはよくわかる。だが、それを繰り返している人の膵臓の中では、実は静かに違うことが進んでいる場合がある。それが慢性膵炎だ。

この記事でわかること
・急性膵炎と慢性膵炎で経過や考え方がどう違うか
・繰り返す腹痛の先で膵臓に何が起きているか
・受診・相談の目安と、治療で目指すゴールの考え方

急性膵炎と慢性膵炎、何が違うのか

急性膵炎は、膵臓が急に激しい炎症を起こす病気だ。背中まで抜けるような激痛で救急を受診し、多くは入院・絶食・点滴で炎症が落ち着けば軽快する。いわば「一度きりの火事」に近い。ただし重症の場合は膵臓の組織が壊死するなど、外分泌・内分泌機能に後遺症を残すこともある。

一方、慢性膵炎は「小さな火事がくすぶりながら何年もかけて燃え続ける」イメージに近い。1回1回の炎症は急性膵炎ほど激しくなくても、それが繰り返されるうちに膵臓の組織が線維化し、正常な組織が硬い瘢痕組織に置き換わっていく。急性膵炎を繰り返しているうちに、この慢性膵炎へと移行していくケースがあることもわかっている。急性期の炎症がいったん落ち着いたからといって、その経過がそのまま終わるとは限らない、という点は知っておいてほしい。

「治れば元通り」とは限らない

「膵炎は治療すれば元通りになる」と思っている人は多いが、それが当てはまるのは主に軽症の急性膵炎の場合だ。慢性膵炎で一度線維化した膵臓の組織は、基本的に元には戻らない。痛みが治まった、数値が正常化した、というのは「今回の炎症の波が引いた」だけであって、膵臓へのダメージそのものが消えたわけではない。ここを混同したまま同じ生活習慣を続けると、気づかないうちに機能低下が進んでしまう。

原因の多くはアルコール、ただしそれだけではない

慢性膵炎の原因として最も多いのは、長期間・大量の飲酒だ。アルコールが肝臓・胃・大腸に与える影響について以前書いたが、膵臓もその例外ではない。喫煙は単独でもリスクを上げるうえ、飲酒との組み合わせで進行を早める相乗効果があるとされる。原因が特定できない特発性のケースや遺伝的な要因、まれに自己免疫性のものもあり、特発性も一定数を占める。ただし日本では、飲酒との関連が確認できるケースが依然として多くを占める。

症状は「痛みが減る」ほうへ変わっていく

慢性膵炎の厄介なところは、症状の出方が進行段階で変わることだ。初期は、みぞおちから背中に抜けるような腹痛発作を繰り返すことが多い。飲酒後に悪化しやすいのも特徴で、みぞおちの痛みの原因のひとつとして鑑別に挙がる病気でもある。

ところが病気が進行して膵臓の組織がさらに減ってくると、逆に痛みの発作は落ち着いてくることがある。その代わりに出てくるのが、脂肪を分解する消化酵素が足りなくなることによる脂肪便(脂っぽく便器に浮いて流れにくい便)や、体重減少だ。便の色や形の変化に気づいた段階で、すでに膵臓の機能がかなり落ちているケースもある。「痛くなくなったから治った」ではなく、「痛みを感じにくくなるほど機能が落ちた」可能性を疑うべき局面がある、というのが正直なところだ。

正常な膵臓と慢性膵炎の膵臓、何が違うか 正常な膵臓 ・組織はやわらかく均一 ・膵管はまっすぐで狭窄なし ・消化酵素とインスリンが十分作られる 繰り返す炎症・長期の飲酒 慢性膵炎の膵臓 ・組織が硬く線維化(元に戻らない) ・膵管の拡張・不整、膵石ができることも ・消化酵素とインスリンの分泌が低下 進行に伴って起こりやすい変化 初期:腹痛発作を繰り返す(飲酒後に悪化しやすい) 進行後:痛みは軽減するが、脂肪便・体重減少・膵性糖尿病が出やすくなる ※個人差があります。あくまで一般的な経過の目安です

もうひとつ知ってほしい、膵性糖尿病の話

慢性膵炎で意外と知られていないのが、糖尿病を合併しやすいという点だ。膵臓はインスリンを作る臓器でもあるため、組織の破壊が進むとインスリンの分泌が落ちて血糖値が上がる。これは一般的な2型糖尿病とは性質が異なり「膵性糖尿病」と呼ばれる。血糖を下げるインスリンだけでなく、血糖を上げるグルカゴンというホルモンの分泌も同時に落ちるため、血糖値が不安定になりやすく、コントロールに難渋することがあるのが特徴だ。慢性膵炎で通院している人が新たに血糖のことを指摘されたら、単なる生活習慣病の糖尿病とは違う視点で向き合う必要がある。

診断はどう進めるか

慢性膵炎が疑われる場合、CTやMRI(MRCP)、超音波内視鏡(EUS)などの画像検査で、膵臓の萎縮や石灰化(膵石)、膵管の不整といった特徴的な変化を確認する。あわせて、膵外分泌機能を調べる検査(便中エラスターゼなど)が行われることもあるが、日本の実臨床では画像検査ほど一般的な位置づけではなく、症状や経過とあわせて総合的に判断されることが多い。

治療で目指すのは「治す」より「これ以上壊さない」

すでに線維化した膵臓の組織を元に戻す治療は、現時点では存在しない。だからこそ治療の軸は「これ以上進行させない」ことに置かれる。最も重要なのが禁酒で、あわせて禁煙も進行を抑えるうえで欠かせない。これは「治療」というより「これ以上壊さないための生活の立て直し」に近い。

そのうえで、痛みには鎮痛薬、脂肪便などの消化酵素不足には消化酵素の補充薬を使う。膵管に石(膵石)が詰まって痛みの原因になっている場合は、内視鏡や体外衝撃波で石を砕く治療(ESWLなど)を行うこともある。糖尿病を合併していれば、その血糖管理も並行して必要になる。人によって進行度も症状の出方も違うため、治療内容はオーダーメイドにならざるを得ない病気でもある。

膵臓がんのリスクも上がるとされている

慢性膵炎があると、そうでない人と比べて膵臓がんのリスクが上がるとされている(報告によっては数倍程度とするものもある)。長期間の炎症が組織に負担をかけ続けることが背景にあると考えられているが、だからといって過度に不安になる必要はない。むしろ大事なのは、リスクがあることを理解したうえで禁酒・禁煙を続け、通院を継続して経過を見てもらうことだ。自己判断で通院をやめてしまうのが、いちばん避けたい選択になる。

受診・相談の目安

次のような場合は、消化器内科への相談を検討してほしい。

  • 飲酒後にみぞおちから背中にかけての痛みを繰り返している
  • 過去に膵炎と言われたことがあり、同じような症状がまた出ている
  • 原因不明の体重減少や、便が脂っぽく流れにくいと感じる
  • 膵炎と言われたあとも、飲酒量が変わっていない

よくある質問

Q. お酒をやめれば、慢性膵炎は治りますか?

A. すでに線維化した組織そのものは元に戻らないが、禁酒によって進行を止め、痛みの発作を減らせる可能性は十分にある。「治す」というより「これ以上進ませない」ことが禁酒の目的だと考えてほしい。

Q. 少量の飲酒なら続けても大丈夫ですか?

A. 慢性膵炎と診断された場合は、量にかかわらず禁酒が強く推奨される。「これくらいなら」という少量の飲酒でも進行のリスクになりうるため、主治医と禁酒の方針について相談してほしい。

Q. 急性膵炎になったら、必ず慢性膵炎に進みますか?

A. そうとは限らない。1回の急性膵炎で回復し、その後の生活習慣次第で慢性化しない人も多い。ただし飲酒を伴う急性膵炎を繰り返している場合は、慢性膵炎への移行リスクが上がるため注意が必要だ。

最終更新:2026年9月

参考
・日本膵臓学会 慢性膵炎診療ガイドライン
・国立がん研究センター がん情報サービス
・厚生労働省 飲酒に関するガイドライン
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。

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コンビニ医
消化器内科医2桁年目。胃腸・内視鏡・当直の話から、家事・時短・車・投資まで。忙しい人の暮らしを少しラクにする情報をゆるく発信。