大腸を切ったあと、トイレから離れられない人へ——頻便・もれそう・出きらないのほんとうのところ
大腸の手術が終わり、退院して、ようやくひと息ついた。ところが、1日に何度もトイレに行く。急に便意が来て、間に合うか不安になる。出したはずなのに、まだ残っている感じがする——。
手術のあとの大腸カメラで外来に来る人から、こうした話を聞くことは珍しくない。そして少なくない人が「手術したんだから仕方ない」と考えて、主治医に言わないまま過ごしている。
この記事では、大腸を切ったあとに便がどう変わるのか、どこを切ったかでなぜ変わり方が違うのか、そして「我慢しなくていいこと」と「すぐに連絡してほしいこと」を整理する。
この記事でわかること
・大腸のどこを切ったかで、術後の便の変わり方が違う理由
・頻便・もれ・残便感を「仕方ない」で済ませなくていい理由と、毎日の工夫
・様子を見てよい変化と、すぐに連絡・受診すべきサイン
大腸は「水分を吸う」と「ためておく」の2つの仕事をしていた
大腸は、小腸から届いたドロドロの内容物から水分を吸収し、便の形にしていく臓器だ。大きく分けると、お腹をぐるりと回る結腸と、肛門の手前にある直腸がある。
- 結腸:水分を吸収して、便を固めていく
- 直腸:できた便をためておき、「出してよいタイミング」まで待たせる
つまり、手術で切った場所によって、影響を受けやすい働きが違う。術後の便の変化が人によって大きく違うのは、このためだ。
切った場所ごとに、何が起きやすいか
結腸を切った場合(右側・左側・S状結腸)
結腸は長い臓器なので、一部を切っても残った部分が働きを補っていく。術後しばらくの便の乱れは、時間とともに落ち着いていく人も多い。ただし、長く続く人もいて、その出方は切った場所によって違う。
右側の結腸を切った場合、この手術では小腸の終わりの部分(回腸の末端)を一緒に切ることがある。回腸の末端は、脂肪の消化に使われた胆汁酸を回収する場所だ。回収しきれなかった胆汁酸が大腸に流れ込むと、腸を刺激して便がゆるくなることがある(胆汁酸性下痢)。胆のうを取ったあとの下痢でも、同じ胆汁酸が関わっていることがある。詳しくは胆のうを取ったあと、どうなる?——食事・下痢・胆汁のゆくえにまとめた。
左側やS状結腸を切った場合は、右側とは症状の出方が違う。便がゆるくなるよりも、出しきれない感じ(残便感)や出しにくさ、便のもれなどが続く人がいる。「左側だから軽いはず」と思い込まず、困っていることがあれば伝えてほしい。
直腸を切った場合(低位前方切除術など)
便の変化がもっとも目立ちやすいのが、直腸を切って、残った腸を肛門の近くでつなぐ手術だ。次のような症状がまとめて出ることがある。
- 1日の排便回数が増える
- 便意が急に来て、我慢しにくい
- 一度で出きらず、少量ずつ何度もトイレに行く
- ガスや便がもれる
- 出したのに、まだ残っている感じがする
これらは「低位前方切除後症候群(LARS:ラース)」と呼ばれている。医療者の間ではよく知られた状態だ。主な理由の一つは、便をためておく場所が小さくなること。ほかにも、肛門を締める筋肉や、便がたまったことを感じとる神経、便を押し出す働きへの影響などが重なって起こると考えられている。つないだ場所が肛門に近いほど、また手術の前に放射線治療を受けている場合に起こりやすいとされる。
ただし、手術からしばらくたって新たに出てきた症状や、だんだん悪くなっている症状を、すべてLARSと決めつけるのは避けたい。つなぎ目が狭くなっていないかなど、別の原因がないかを確かめる必要があることもある。
一時的な人工肛門がある場合
直腸の手術では、つなぎ目を安静にさせるために、一時的に小腸で人工肛門(ストーマ)を作ることがある。この期間は、便が大腸を通らずに出てくるため、水分の多い便がたくさん出て、脱水になりやすい。尿の量が減る、口が渇く、立ちくらみがするといった変化が出たら、その日のうちに連絡してほしい(詳しくは後半の「こんなときは連絡・受診を」で整理した)。
もうひとつ知っておいてほしいのは、人工肛門を閉じたあとから、肛門からの排便の変化が始まるということだ。「人工肛門がなくなれば元どおり」と思っていた人ほど、戸惑いやすい。閉じたあとに回数が増えるのは、珍しいことではない。
外来でよくある誤解:「手術したんだから、便がおかしいのは仕方ない」
術後の大腸カメラの前に話を聞くと、「トイレは1日10回くらいです。でも手術したんで、こんなもんですよね」と言われることがある。そして、主治医にはそれを伝えていない。
たしかに、手術の前とまったく同じに戻るとは限らない。しかし「仕方ない」と「何もできない」は別の話だ。先ほどの症状にはLARSという名前がついていて、薬の調整やリハビリなど、相談しながら試せることがある。
経過には個人差がある。LARSの経過を追った研究では、自然な改善の多くは術後(または人工肛門を閉じたあと)半年ほどまでに見られ、その後は変化が小さかったという報告がある。つまり、「そのうち治るだろう」と何年も待つより、つらいと感じた時点で相談したほうがいい。
そして、言わなければ対処は始まらない。主治医は手術の結果や再発の有無は確認してくれるが、あなたが毎朝トイレの前で何分過ごしているかまでは、聞かれなければわからない。「回数が多くて外出がこわい」「夜も起きる」と、具体的に伝えていい。
毎日を少しラクにするための工夫
まずは排便の記録をつける
回数、時間帯、便の硬さ、もれがあったか、その前に何を食べたか。1〜2週間ぶんメモしておくと、自分が崩れやすいパターンが見えてくる。受診したときにも、「多いです」より「1日12回、朝に集中します」のほうが、ずっと伝わりやすい。
食事は「禁止」より「自分の傾向を知る」
- 一度にたくさん食べるより、量を分けたほうが落ち着く人がいる
- 脂っこいもの、アルコール、カフェイン、香辛料などで便がゆるくなる人もいる。何が合わないかは人によって違う
- 便がゆるいときは、水溶性の食物繊維で便がまとまりやすくなる人もいる
- 人工肛門があって便の量が多い時期は、水分と塩分の補給を意識する(量は主治医に確認する)
薬とリハビリで調整できることがある
便の水分を調整する薬や下痢止めなどを、症状に合わせて検討していく。整腸剤が処方されることもあるが、LARSそのものに効くとは限らない。また、市販の下痢止めを自己判断で飲み続けるのは避けてほしい。術後の状態によっては合わないこともあるので、使う前に主治医に相談するのが安全だ。
肛門を締める筋肉(骨盤底筋)のトレーニングが役立つこともある。自己流ではなく、指導を受けながら行うのが基本になる。それでも生活に大きな支障が続く場合には、専門の施設で行う治療(肛門から水を入れて腸をまとめて空にする洗腸療法など)という選択肢もある。これは訓練を受けたスタッフの指導のもとで始めるもので、自己流で行うものではない。
お尻の皮膚を守る
排便の回数が増えると、肛門のまわりの皮膚がただれたり、かゆくなったりしやすい。ここで気をつけたいのが、きれいにしようとして洗いすぎてしまうことだ。こすらず、洗浄はやさしく、しっかり乾かす。詳しくはお尻がかゆい。実は「洗いすぎ」が原因になっていることがあるで書いた。
外出前の「保険」をかけておく
出かける先のトイレの場所を先に調べておく。吸水パッドや替えの下着を持っておく。それだけで「間に合わなかったらどうしよう」という不安が軽くなり、外出のハードルが下がる人は多い。
手術のあとの大腸カメラは、何を見ているのか
大腸がんの手術のあとは、定期的な検査が続く。ここで知っておいてほしいのは、検査ごとに目的が違うということだ。
- CTや血液検査など:肝臓や肺などへの再発がないかを確認する
- 大腸カメラ:つなぎ目の状態に加えて、残っている大腸に新しいポリープやがんができていないかを確認する
がんを取りきっても、残った大腸に別の病変が新しくできることがある。大腸カメラは、その芽を早いうちに見つけるための検査だ。どのくらいの間隔で、どの検査を受けるかは、がんの進み具合や手術の内容によって違うので、主治医の予定に沿って進めてほしい。検査そのものの流れや準備は、大腸カメラのすべてにまとめてある。
こんなときは連絡・受診を
すぐに救急受診(夜間・休日でも。迷ったら119番)
・強い腹痛があり、吐いている。おならや便が止まっている
・高い熱と強い腹痛が同時にある
・肛門やストーマから大量に出血している
・ストーマの色が黒っぽい・紫色に変わった
・尿がほとんど出ない、意識がぼんやりする
その日のうちに、手術を受けた病院・ストーマ外来へ連絡
・小腸のストーマからの排液が急に増えて、減らない
・尿の量が減った
・口の渇きや立ちくらみがある
当日〜数日以内に、手術を受けた病院へ連絡
・熱が出た
・便に血が混じる
・ストーマのまわりの皮膚がただれて、装具が貼れない
次の外来で相談(我慢しなくていい)
・回数の多さ、便意の急さ、もれが生活に影響している
・夜中にトイレで何度も起きる
・手術からしばらくたって、新たに出てきた・悪くなってきた排便の症状がある
・体重が戻らない
・お尻の皮膚トラブルが続く
よくある質問
Q. 回数が多い状態は、いつまで続きますか?
A. 個人差が大きい。早い時期に改善していく人もいるが、ある程度の時期を過ぎると変化が小さくなり、長く続く人もいる。回復を待ってから相談するのではなく、つらいと感じた時点で主治医に伝えてほしい。
Q. 人工肛門を閉じたら、元の排便に戻りますか?
A. すぐに元どおりになるとは限らない。直腸の手術では、人工肛門を閉じたあとから、回数の増加や便意の急さが目立ってくることがある。「閉じたら終わり」ではなく「閉じてからが調整の始まり」と考えておくと、戸惑いが少ない。
Q. がんを取りきったのに、大腸カメラは続ける必要がありますか?
A. 多くの場合、続ける意味がある。手術のあとの大腸カメラは、つなぎ目の確認だけでなく、残っている大腸に新しくできたポリープやがんを早く見つけるための検査でもある。間隔や期間は病状によって違うので、主治医の予定を確認してほしい。
まとめ
- 大腸は「水分を吸う(結腸)」と「ためておく(直腸)」の2つの仕事をしている。どこを切ったかで、術後の変化が違う
- 右側の結腸を切ると胆汁酸による下痢が、左側やS状結腸では残便感や出しにくさが続くことがある
- 直腸の手術のあとの頻便・便意の急さ・もれ・残便感には「LARS」という名前があり、相談・調整できる方法がある
- 「そのうち治る」と待ち続けず、記録をつけて、つらいと感じた時点で具体的に伝えていい
- 小腸ストーマで排液が増えて脱水の兆しがあれば、その日のうちに連絡する
- 手術のあとの大腸カメラは、残っている大腸の新しい病変を見つけるためにも大事
臓器を取ったあとの生活については、胃を切ったあと、食べるのがこわくなった人へ、胆のうを取ったあと、どうなる?でも書いている。
最終更新:2026年11月
参考
・大腸癌研究会『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2026年版』(2026年7月発刊。術後の大腸内視鏡検査に関する記述は、Web公開されている2024年版の各論で確認)
・国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 療養」 https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/follow_up.html
・Christensen P, et al. Management guidelines for low anterior resection syndrome – the MANUEL project. Colorectal Dis. 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7986060/
・Lauwereins ら(2025)低位前方切除後症候群の経過を2年間追跡した前向き研究 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41125949/
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
