貧血なのに、なぜ胃カメラ?その理由を話します
鉄欠乏性貧血の原因は月経や食事不足だけではない。胃や腸に原因が隠れていることがあるため、消化器内科での検査を勧めることがある。
外来でときどきこんな患者に会う。
「婦人科で鉄欠乏性貧血と言われて鉄剤をもらいました。でも消化器内科も受けるよう言われて……なぜですか?」
疑問はもっともだ。貧血と消化器内科、ぱっと見て繋がらない。でも消化器内科医としては、このつながりをきちんと知っておいてほしいと思っている。鉄欠乏性貧血の原因が、胃や腸に隠れていることは珍しくないからだ。
この記事でわかること
・鉄欠乏性貧血と消化器内科の関係
・胃カメラ・大腸カメラを勧める理由
・特に注意が必要な人のパターン
鉄欠乏性貧血の原因は「出血」か「吸収不良」か
鉄欠乏性貧血の原因はざっくり3つに分けられる。
①鉄の摂取不足
食事から鉄を十分にとれていないケース。偏食・ダイエット中に多い。
②需要の増大
妊娠・授乳中は鉄の消費量が増える。月経量が多い女性も継続的に失いやすい。
③消化管からの出血・吸収障害
ここが消化器内科の出番になる。胃や腸のどこかで出血が起きていたり、胃の粘膜が傷んで鉄をうまく吸収できなくなっていたりする。胃酸を抑える薬(PPI)を長期間使っている場合も、鉄の吸収が落ちることがある。
胃カメラを勧める理由
①胃潰瘍・十二指腸潰瘍による出血
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、じわじわと出血し続けることがある。量が少なければ黒い便になることもなく、気づかないまま貧血だけが進む。ピロリ菌感染や鎮痛剤(NSAIDs)の常用が背景にあることが多い。
②萎縮性胃炎による吸収障害
ピロリ菌が長年いると胃粘膜が萎縮する。萎縮が進むと胃酸の分泌が落ち、食事から鉄を吸収しにくくなる。鉄剤を飲んでいてもなかなか改善しない人は、このパターンを疑う。
③頻度は高くないが見逃してはいけない——胃がん
胃がんが出血源になっていることもある。鉄欠乏性貧血をきっかけに胃カメラを受けて早期がんが見つかるケースは、外来でも経験する。
大腸カメラを勧める理由
消化器内科医が特に気にするのは、男性の鉄欠乏性貧血と閉経後女性の鉄欠乏性貧血だ。
男性は月経がない。閉経後の女性も同様だ。この2つのパターンで鉄欠乏性貧血があれば、消化管からの出血をまず疑う。そしてその原因として見逃してはいけないのが大腸がんだ。
大腸がんは初期に症状がほとんどない。血便が出る前に、じわじわした出血が続いて貧血だけが進むことがある。便潜血が陽性になっていれば典型的だが、陰性でも出血が続いていることはある。
大腸ポリープ・IBD(炎症性腸疾患)も同様に出血源になりうる。
外来でよくある誤解
「鉄剤を飲んで数値が改善したから大丈夫」と思っている人が多い。
だが、出血が続いていれば鉄剤をやめたとたんにまた貧血が戻る。数値の改善は「鉄が補えた」だけであって、「原因が消えた」わけではない。原因が消化管出血だった場合、それを放置し続けることになる。
もう一つ。「若い女性だから月経のせいでしょう」と婦人科だけで完結するケースも多いが、若い女性でも消化管出血や吸収障害が原因のことはある。鉄剤を飲んでも改善が乏しい場合・一度改善してもすぐ再発する場合は、消化器内科への相談を検討してほしい。
こんな人は消化器内科も受けてほしい
・男性で鉄欠乏性貧血と言われた
・閉経後なのに鉄欠乏性貧血と言われた
・鉄剤を飲んでいるが貧血がなかなか改善しない
・鉄剤をやめると貧血が再発する
・みぞおちの違和感や胃もたれが続いている
・便が黒い・赤いことがある
・家族に大腸がんや胃がんの人がいる
よくある質問
Q. 鉄欠乏性貧血で必ず胃カメラ・大腸カメラが必要ですか?
A. 全員に必要というわけではない。月経量が多い若い女性で鉄の摂取不足も明らかな場合は、まず婦人科的評価と食事指導が優先されることが多い。ただし男性・閉経後女性・鉄剤で改善しないケース・再発を繰り返すケースは消化管精査を強くすすめる。主治医と相談を。
Q. 胃カメラは怖いのですが、必ず受けなければいけませんか?
A. 鎮静剤を使えば苦痛はかなり軽減できる。胃カメラへの不安について詳しく書いた記事があるので参考にしてほしい。「原因を調べずに鉄剤だけ飲み続ける」よりも、一度しっかり検査した方が結果的に安心できることが多い。
Q. ピロリ菌を除菌すれば貧血も改善しますか?
A. 萎縮性胃炎が原因の吸収障害であれば、除菌後に鉄の吸収が改善するケースはある。ただし萎縮が進んでいる場合は完全には戻らないこともあり、鉄剤の継続が必要なこともある。除菌前後の評価は主治医と相談してほしい。
Q. 胃カメラと大腸カメラ、どちらも受けた方がいいですか?
A. 状況による。まずは胃カメラで胃・十二指腸を評価し、異常がなければ大腸カメラへと進むのが一般的な流れだ。男性・閉経後女性・便潜血陽性がある場合は両方の検査を視野に入れる。どちらを先にするかは、症状や年齢・リスクをふまえて主治医が判断する。
まとめ
鉄欠乏性貧血の原因は「婦人科」だけではない。胃潰瘍・萎縮性胃炎・大腸がんなど、消化管に原因が隠れているケースは思ったより多い。特に男性・閉経後女性は消化管出血の可能性を必ず考える必要がある。
「鉄剤で数値が戻ったから大丈夫」と思わず、改善しない・繰り返すようであれば消化器内科への相談を検討してほしい。
参考
・日本消化器病学会 ガイドライン
・国立がん研究センター がん情報サービス
・日本ヘリコバクター学会
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
最終更新:2026年06月
