「萎縮性胃炎ですね」と言われたまま、放置していませんか
胃カメラや健診で「萎縮性胃炎ですね」と言われた——でも意味がよく分からず、症状もないからそのままにしている。そういう人が、外来には本当に多い。
萎縮性胃炎は、胃がんのできやすい「土壌」だ(胃がんのリスク全体は胃がんのリスク、ピロリ菌だけじゃないにまとめた)。もちろん、萎縮性胃炎と言われた人が全員がんになるわけではない。ただ、リスクを考えるうえで大事な背景であることは確かだ。
この記事では、その一歩先——「萎縮性胃炎」という結果をどう読み解き、自分のリスクをどう知るかに絞って整理する。紛らわしい言葉の違いと、血液検査でわかるリスク分類が分かれば、必要以上に不安にならずに済む。
この記事でわかること
・萎縮性胃炎・腸上皮化生・自己免疫性胃炎の違い
・ABC検診で「自分のリスク(A〜D群)」をどう読むか
・「ピロリがいない=安心」とは限らない理由
萎縮性胃炎とは、どういう状態か
萎縮性胃炎とは、胃の粘膜が長年の炎症によって薄く弱った(萎縮した)状態をいう。その多くは、ピロリ菌の長期感染が原因だ。
やっかいなのは、ピロリ菌の感染による胃炎は、症状が出ないことが多いという点だ。萎縮も、健診や胃カメラで初めて指摘されることがある。だから「症状がない=問題ない」とはならない。
紛らわしい3つの言葉を整理する
萎縮性胃炎の周辺には、似た言葉がいくつかある。混乱しやすいので、まず整理しておきたい。
- 萎縮性胃炎:胃の粘膜が薄く弱った状態。多くはピロリ菌が原因
- 腸上皮化生:慢性の炎症に伴って、胃の粘膜の一部が腸の粘膜に似た性質へ変化した状態。萎縮性胃炎と一緒にみられることが多い。範囲が広い場合や程度が強い場合は、胃がんのリスクを考えるうえで重要な所見になる。除菌したあとも残ることが多く、改善の程度には個人差がある
- 自己免疫性胃炎(A型胃炎):主に自己免疫を背景として、胃の壁細胞が障害されて起こる別のタイプの萎縮性胃炎。胃酸と内因子(ビタミンB12の吸収に必要な物質)が減るため、鉄欠乏やビタミンB12欠乏、悪性貧血の原因になることがある。また胃がんやI型胃神経内分泌腫瘍のリスク評価も必要になるため、ピロリ菌に関連した胃炎とは診断も経過観察の考え方も異なる
多くの萎縮性胃炎はピロリ菌によるものだ。ただ、結果に「腸上皮化生」と書かれていたら範囲や程度を確認しておきたいし、「自己免疫性」なら別系統の話になる、と覚えておくと自分の結果が読みやすくなる。
自分はどのくらいのリスク?——ABC検診のA〜D群
胃がんのリスクを大まかに知る方法に「ABC検診(胃がんリスク層別化検査)」がある。ピロリ菌の抗体と、胃の萎縮の程度を示す血液マーカー(ペプシノゲン)を組み合わせて、A〜Dの4群に分けるものだ。
- A群:抗体陰性・ペプシノゲン陰性
- B群:抗体陽性・ペプシノゲン陰性
- C群:抗体陽性・ペプシノゲン陽性
- D群:抗体陰性・ペプシノゲン陽性(高度の萎縮が示唆される)
標準的な説明では、A群<B群<C群<D群の順に、胃がんのリスクが大きくなるとされている。「自分がどのあたりにいるか」を知る助けになる。
ただし、この検査には知っておくべき前提が3つある。
1. ABC検診は「がんを見つける検査」ではない
ABC検診でわかるのはリスクの目安であって、いま胃にがんがあるかどうかではない。胃の粘膜を直接見て、必要なら組織を採って調べられるのは胃内視鏡検査(胃カメラ)だ。
国立がん研究センターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン(2014年度版)」でも、ペプシノゲン法とピロリ菌抗体を組み合わせた方法(ABC分類)は、死亡率を下げる効果を検討した研究がなく、対策型検診として行うことは推奨されていない。国のがん検診としてすすめられているのは、胃X線検査と胃内視鏡検査だ。
「ABCでリスクが低かったから検診は要らない」という読み方は、この検査の使い方として正しくない。
2. 正しい結果が得られないことがある
血液の値をもとにする検査なので、次のような場合はペプシノゲン値や抗体価の解釈が難しく、正しい結果が得られないことがあるとされている。
- ピロリ菌の除菌治療を受けたことがある
- 胃酸を抑える薬(PPIなど)を飲んでいる
- 胃の手術を受けたことがある
- 腎不全がある
とくに除菌後の人は、A〜Dとは別に「E群(除菌群)」として扱うのが実務上の取り扱いだ。心当たりがあるなら、ABC検診の結果だけでリスクを決めず、既往歴・服薬歴・胃カメラの所見を合わせて医師と確認してほしい。
3. 「A群」の中に、安心できない人が混じることがある
本来のA群は「ピロリ菌に一度も感染したことがない人」だ。ところが、過去に感染した人は抗体の値が下がり、A群に入ってしまうことがある。これは「偽A群」と呼ばれ、リスク検診の課題として指摘されている。
つまりA判定でも、除菌歴や胃の指摘を受けた経過があるなら、額面どおり「感染したことがない」とは読めない。過去にピロリ菌を指摘されたことがあるか、除菌したことがあるかは、必ず医師に伝えてほしい。
外来でよくある誤解:「ピロリがいない=安心」ではない
ABC検診でいちばん誤解されやすいのが、D群だ。「ピロリ菌がいない」と聞くと安心しそうになるが、標準的な分類ではD群が高リスク群に位置づけられる。
理由は、D群が「抗体は陰性だが、ペプシノゲンは高度の萎縮を示している」という組み合わせだからだ。萎縮が高度に進むと、過去に感染していても抗体が陰性になることがある。つまり「感染したことがない」のではなく、「感染の結果として抗体が下がった」可能性がある。
同じ理由で、除菌してピロリがいなくなった人も、すでにある萎縮のぶんのリスクは残る(除菌後の付き合い方はピロリ菌を除菌したら、その後どうなるのかへ)。
「ピロリ陰性」には、少なくとも3通りの意味がある。
- もともと感染していない
- 除菌した(E群として別に考える)
- 高度の萎縮を背景に、既感染でも抗体が陰性になっている
どれなのかで意味がまったく違う。陰性という一語を額面どおり受け取らない、というのがここでの肝だ。
結局、どうすればいいのか
やることは、突き詰めるとシンプルだ。
- ピロリ菌の感染が確認され、除菌の適応があるなら、早めの除菌を医師と相談する。治療後は、除菌できたかどうかを適切な方法で確認するところまでが一区切りになる(ピロリ菌、除菌した方がいい?)
- 胃カメラを続ける。間隔に一律の決まりはない。日本ヘリコバクター学会のガイドライン(2024年版)でも、経過観察が不要といえる群は現時点で特定できないとして長期の経過観察がすすめられており、リスク因子を評価して間隔を個別に設定することが重要だと書かれている(そのうえで、具体的な決め方は今後の課題とされている)。次の胃カメラの予定を、結果を聞くときに主治医と決めておくのが確実だ
- 生活面でも胃がんリスクを下げる(減塩・禁煙など。詳しくは胃がんのリスク記事へ)
なお、自治体などが行うがん検診としての胃内視鏡検査は、国立がん研究センターのガイドラインで「50歳以上・2〜3年ごとが可能」とされている。ただしこれは集団に対する検診の話であって、萎縮や腸上皮化生を指摘された人、除菌後の人の経過観察の間隔とは別の話だ。混同しないでほしい。
萎縮した粘膜が完全に元どおりになるとは限らないが、「これ以上進めない」「がんを早く見つける」ためにできることは、きちんとある。
こんなときは、受診のタイミング
萎縮性胃炎を指摘されただけで、救急受診が必要になることは通常ない。ただし、次の症状は別だ。
ただちに救急医療へ(119番も含めて)
- 吐血した、コーヒーの残りかすのようなものを吐いた
- 黒い便に加えて、ふらつき、冷や汗、息苦しさ、動悸、意識がぼんやりする、失神しそう——消化管からの出血で血圧が保てなくなっている可能性がある
自分で様子を見ず、119番も含めて、ただちに救急医療にかかってほしい。
当日〜数日のうちに連絡・受診
- 黒い便が出た(ふらつきなどがなくても。鉄剤などの薬で便が黒くなることもあるので、区別のために早めに連絡する)
- 食べ物がつかえる
- 原因のわからない体重減少がある
- 健診で貧血を指摘された
落ち着いて、次の受診で相談
- 萎縮性胃炎と言われたが、次の胃カメラの予定が決まっていない
- ピロリ菌を調べたことがない、または除菌したかどうかはっきりしない
- 胃もたれや胃の不快感が続いている
よくある質問
Q. 萎縮性胃炎は治りますか?
A. 2つに分けて考えてください。ピロリ菌の除菌は、胃がんの発症リスクを下げることが期待できます。一方で、すでに生じた萎縮や腸上皮化生が完全に消えるとは限りません(改善の程度には個人差があります)。とくに萎縮や腸上皮化生が強い場合は除菌後もリスクが残るため、内視鏡での経過観察が重要になります。
Q. 「ピロリ陰性」と言われたのに、なぜ要注意なのですか?
A. 萎縮が高度に進むと、過去に感染していても抗体が陰性になることがあるためです(ABC検診のD群)。ピロリ陰性を額面どおり安心と受け取らず、胃カメラの所見と合わせて確認してください。
Q. ABC検診でA群でした。胃カメラは受けなくていいですか?
A. そうとは限りません。除菌歴などがあると抗体の値の関係でA群に入ってしまう「偽A群」があること、そしてABC検診はがんを見つける検査ではないことの2つが理由です。過去のピロリ菌の指摘や除菌歴を医師に伝えたうえで、胃カメラを受けるかどうかを相談してください。
Q. どれくらいの間隔で胃カメラを受ければいいですか?
A. 一律の決まりはありません。集団に対するがん検診としては「50歳以上・2〜3年ごとが可能」とされていますが、萎縮や腸上皮化生を指摘された人、除菌後の人の経過観察は、これとは別に考えます。萎縮の程度、腸上皮化生の有無、胃がんの既往、年齢、家族歴などで変わるので、結果を聞くときに「次はいつ受ければいいか」をその場で確認してください。
まとめ
「萎縮性胃炎」と言われたら、まず確認したいのは、ピロリ菌の感染歴・除菌歴、胃カメラで見た萎縮や腸上皮化生の程度、そして今後の内視鏡の予定の3つだ。
- ABC検診はリスクを大まかに層別化する検査で、いまがんがあるかを調べる検査ではない
- 除菌後・PPI内服中・胃の手術後・腎不全では正しい結果が得られないことがある。除菌後はE群として別に扱う
- A群でも安心と決めつけない(偽A群)。D群は「陰性」でも高リスク群
- ピロリ陰性には未感染/除菌後/高度萎縮による既感染の3通りがあり、意味が違う
- 胃カメラの間隔は一律ではない。次の予定をその場で決めておく
すぐ慌てる必要はない。ただ、「言われたまま、何もしない」のがいちばんもったいない。結果・除菌歴・内視鏡の所見を整理して、次の検査の計画を主治医と決めておきたい。
参考
・日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」(2024年11月)
・国立がん研究センター「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」 https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/igan.html (確認日:2026年9月16日)
・日本消化器内視鏡学会「ピロリ菌を除菌しましたが、その後胃カメラ検査を受ける必要がありますか?」 https://www.jges.net/citizen/faq/esophagus-stomach_06 (確認日:2026年9月16日)
・国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 予防・検診」
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針は主治医にご相談ください。
最終更新:2026年9月
